ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『Square Apartment』永谷優治【120夜目】


『シリーズおともだち』の永谷優治による最新作。『シリーズおともだち』で発揮した、カワイイキャラクターに不穏なことをさせまくる不条理ギャグを今回もぞんぶんに味わえる作品となっている。

以前青木純『Apartment!』のときにも書いたが、ショートアニメだとわりとあったりする、「アパートもの」とも呼ぶべき一つのジャンルがある。主人公が住むアパートとその隣人たちがゆるく繋がって交流したり、あるいはオムニバス調に個々の物語が展開していったり。小規模アニメーションにおける「アパートもの」ってけっこう玉石混合で、実際この作品にも、「アパートもの」ではあるあるすぎて死にたくなる「騒音を出す隣人」が何のひねりもなく登場したりして、ああ~もう~それ何本も見てきた~って気持ちに、その場はさせられてしまう。……そんな、なんとなく見る前に想像がつく程度の「アパートもの」的お決まりを、本作は一つ残らず粉砕してゆくのだ。

左上の男性の理不尽っぷりも笑えるし(ラストの展開も意外性が抜群!)、結局左下の男の人が最後まで全く絡まないのもなかなかいいギャグだと思う。1番最後、「アパートもの」作品では思いついても絶対にやらなかったアレまでしっかりやっちゃって、で、そのあとのオチまで完璧に「『ほのぼの』の皮を被った狂気」で終わらせちゃうところとか、ホントばっちりだ。これこそが永谷の作風なのだな……と思う。

なぜか起用されている、PC-98XX風のグラフィックもユニーク。絵柄や演出で、いくつもギャップを仕込んでいるからこそ、こういう過激なギャグが効いてくる。笑いのアニメーションに必要なものは、決してスクリプトに留まらないのだな、とつくづく思い知らされる好例だ。

『シリーズおともだち』サワイ企画【119夜目】


クリエイティブ・チーム「サワイ企画」の永谷優治が、キャラクター・デザインにしいたけ鍋つかみを迎え制作した短編ギャグシリーズ。YouTubeで全6話が公開されており、自主制作のDVDには未公開話が収められているという。

ユニークなのが、「ほのぼの(不穏)自主アニメーション!!」と銘打っている通り、声もイラストも展開も非常にゆったりした日常系カワイイ作品になっているはずなのに、どこかの何かがズレていて内容がやたら怖い(笑)ところだ。ホラーというわけでは勿論ないんだけれど、えっ?そのボケ流すの?なんで?的な、心がざわつく展開が次々と訪れ、なのにストーリーはほのぼの路線へいつも強引に戻っていってしまう。でも、明らかに作家がやりたがっているのはこちらではないのだ。声優も上手で音響もよく、音楽や色味もやさしくて暖かい。そしてそれが全て、不条理ギャグをやるための「化けの皮」にしかなっていないのだから笑ってしまう。もう、確信的すぎる!おもしろいなーもう!!

ニコニコ動画で話題沸騰した、もはや「化けの皮」がズタズタになってる第5話「ちはるトマホーク」は特におススメ。わりと出来としては自信作だったはずで、こういう「自信作」は普通2話目とかに持ってきたいはずのところを、あえて最終話手前に配置したあたり……もう全6話構成を先に作った上で、意図的にシリーズをぶっ壊そうとしていたことがよく判るのでそこも良いですね。

最近だとわりと当たり前になってきたけれど、公式ホームページをしっかり作っていることもグッドです。

『Jupiter19078』鈴木純郎【118夜目】


一体どうやってこの作品を知ったんだっけ……。経緯は忘れてしまったけれど、その内容は決して忘れられない短編アニメーション。木に(ネットによると、松らしい)カンナをかけて、その表面を1枚づつ地道にコマ撮りしたものだという。

まず、こんなにも木目が有機的な動きをすることに驚かされる。そうか木の黒点ってこう見ていくと動きまくるんだなとか、模様はゆっくり変わっていくんだとか。そして次第に、作家自身にも誘導されるように、それこそ木星の大気とか、水面の動きのようにも思えてきてしまう。ただし、たとえそこまで具体的な何かに頭の中を寄せなくても、ただ漠然と眺めるだけで不思議と魅了される映像になっていると思う。

木、という、固くてアニメーションには不向きに思える素材が、これほど有機的な表情を見せている……そのギャップが魅力の作品。作者の鈴木純郎は、造形作家であるという。

『さよならスペースシャトル』浜根玲奈・岡本将徳【117夜目】


岡本は現在に至るまで、数々のクライアント・ワークでも見事な手腕を発揮している。その中から、ひとつご紹介。

立体と2Dの使い分けが素晴らしい。現実に接続されたマテリアルの選択と、ある種の妖精的な存在であるペラ紙のキャラクター。それらが動き回って、融合して、そうして表されるその「夢」の見せ方は、『BONNIE』のような岡本の過去作品とも通じるものがある。ほんとはフル・バージョンがネットにアップされていたんだけれど、今見たら非公開になっちゃっていたな……。

情熱と、執念と、そして「現実」から決して離れない見事な作品哲学で、アニメートとこちらの世界をHDMIケーブルで直接接続する岡本の作風は――例えば広告の方なら少なからず常に意識することだと思うんだけれど、たとえそうでなくとも、若いアニメーション作家さんとかが見て頂けたらいいんじゃないかなぁ……と、すごく勝手に思ったりもする。表現者としての(人間としての)目線を、しっかり外側の世界へ向けられるということ。それは案外、一種の才能なのかもしれないですね。

『まつすぐな道でさみしい』岡本将徳【116夜目】

超絶技巧コマ撮りアニメーション作家・岡本の東京藝術大学大学院修了作品。声優に竹中直人が起用され、「藝大のコネクションって一体……!?」と当時の鑑賞者をビビらせた(笑)一本だったりもします。

とにかく、挑発的な内容だ。思えば『ばあちゃん』の頃からの、岡本作品にある一種のカッコ良さはつまり「挑発的」なところだった。この要素だけで作品を一本もたせますよ、という頑固オヤジのようなオリジナリティと自信。爺さんが空を仰ぎ、顔をかき、音がするので振り返り、次はこちらの方を向いて、ほとんどそれだけで作品を構成してしまう大胆さ。そして実際に成立している驚き。アニメーションというテクノロジーへの確かな技術と献身と、そしてモチーフへの観察眼、プラス愛情(みたいなもの)がそれを可能にしてしまっている。冒頭のテロップが終わり、どどうと風が吹いて後ろの緑が揺れるファーストカットの驚きには、脳の回線がショートするくらいの衝撃が訪れるだろう。ほんとに、どうやって、こんなもの作れたんだよ、って感じだ。

モンタージュを用いて、他の作品よりも比較的複雑なことを表現しようとしている作品でもあるだろう。ここはもしかすると、好みが分かれるかもしれない。

『BONNIE』岡本将徳【115夜目】

岡本将徳は「光の作家」でもある。アニメーションに、自然光の美しさを意識的に取り入れることが多い。『BONNIE』は、自身の研究テーマである「コマ撮り」を撮影スタジオの外にまで持ち出した意欲作だ。

岡本をはじめ、いくつかのアニメーション作家が持っている素晴らしい哲学のひとつに「決してスタジオに篭ってはいけない」……とでも呼べるようなものがあると思う。アニメーション作家が作り出すものは、決して作家の中で完全に閉ざされてはならず、鑑賞者の日々・日常時間の中とどこかが接着していなくてはいけない――とでも言うような……。竹内泰人やトーチカとかもそうだと思うけれど、絶対的に「わたしたちが見知っている」ものから離れないようにする岡本の哲学、「スタジオを捨てよ、街へ出よう!」みたいな感じがこの作品からは溢れていると思う。特にこの作品のアプローチはそれが明確だ。「光の作家」たるゆえんは、たぶん、そこにもある。

応用の効くキャッチーな内容だったこともあり、当時のSONYがタイアップをとって『'Ho-Ho' This message is boiling hot.』という新編で商業展開したことでも知られる本作。岡本の代表作のひとつとなり、最近だと、日本財団のTVCMでこのときの作風に近いものを展開させている。

『パンク直し』岡本将徳【114夜目】

切り絵アニメーションの超絶技巧職人、岡本将徳の代表作。このトンガりまくった内容に、当時リアルタイムで鑑賞した「界隈ファン」の衝撃は計り知れなかっただろう。とにかく、すごい。まずは無言で鑑賞してみて欲しい。

音楽一切ナシ。(語弊がある言い方だが)ストーリーもセリフも一切ナシ。抽象的なシーンも無ければ、ある意味で「創意に満ちた」具象的なシーンすらもない。ただただ映されるのは、近所の自転車屋の無口なおじさんがパンクを直してゆくその過程だけ。それも、ほぼノーカットで。後輪の空気を抜いたところから始まり、いろいろあってパンクを直し終えると、後輪の空気を再び入れたところでサッとエンドクレジット。以上、である。ただそれだけなのに目が離せない。気づけばどんどんと引き込まれてゆく。思わず見とれてしまうーーおじさんの軽やかな手さばきに、自転車の後輪の意外と複雑なその構造に。見事なのは、「パンクを直す」その工程に実は色々なアクションが含まれていることだ。水に浸して、モーター音の激しいなんかすごい機械が出てきて、と思ったら静かにペトペトと何かを塗って、小さなローラーをコロコロと転がして……。短い尺に、これほどにも多彩な“動き”が込められている。そして作品の三分の一を占めるのは、修理したタイヤを元のリムに丁寧にはめ直してゆくまでの過程だ。ここはワンカットでじっくりと描かれる。その動きに、色味に、息遣いに――たった1分間で、自転車という“モノ”の圧倒的な存在、そして修理工のここまで踏まえて来られた長い長いキャリアが、年月が、鑑賞者である我々を押しつぶす勢いで強烈に立ち上がってゆく。アニメーションはただ淡々と、その「パンク直し」の過程を異常なまでに精密に描き出していただけなのに。

本作のVimeoのコメント欄には、次の言葉が並ぶ。「Beautiful」と。それが全てを象徴していると思う。きっと多くの同年代の作家を嫉妬させ、影響を与え、コンペティションでは「最優秀賞に相応しい作品とは何か」の一種の基準点を作ったのではとすら感じさせる、学生アニメーションのゴールデン・エイジを象徴する傑作。

『ばあちゃん』岡本将徳【113夜目】

岡本将徳は、めちゃめちゃ職人肌タイプのアニメーション作家だ。オリジナル作品においての、(この言葉がふさわしい作家は他にも多く居るけれど)まるでラーメン屋のガンコ親父のような柱の立ったオリジナリティ、哲学、そして誰もが息を呑む超絶テクニック。全ての作品がとにかく「シンプル」で、ただただアニメートにだけ全てが費やされていて、それなのに鑑賞者は、作家がもつ「ある素晴らしい“眼差し”」に捉えられて、そこから目を離せない。

作家としての岡本のその特長は、緻密かつ有機的なその切り絵アニメーションにある。紙の質感が残る切り絵パーツ、そして決して「ぴったりし過ぎていない」アニメートは、人の手の温もりと息遣いを感じさせる。そして対象の小さな仕草すら見逃さない……鋭すぎる観察眼と、それを「動き」で再現しようとする凄まじい情熱・執念。そのアニメーションへの献身ぶりは、スクリーンを通じてこちらにまで燃え移ってくるほどだ。

岡本の初期作から、その「ぶっ飛びぶり」は変わらない。この1本を見ただけでピンと来た方がいたら、勿論うれしいし、そうでない方でも、これから数日かけてこの作家を追いかけてみるので、ぜひ読み進めて頂けたら嬉しい。とにかく、ぶっ飛んでいるのだ。岡本将徳は。

『そんな夜』WHOPPERS【112夜目】


今年の新千歳空港国際アニメーション映画祭で、この作品を大きなスクリーンで観られたことは大きな収穫だった。なんかすごく、映画っぽいんですよね。実際、ある種の映画へのリスペクトがとても込められている作品だと思う。全体的にユーモアが海外の、ちょっとオシャレでからっとしたものになっているのだ。

抜群のイラストに色のセンス、ゆったりとした動きも実に見事。時々、わざとリズムにあわせてくる所も可愛らしい。そしてワンシーンごとの切り取り方がとてもいいのだ。誰かと一緒だったり、一人ぼっちで泣く人にソッと肩を寄せる存在が現れたり……。ちょっとグロいかな、というポイントも入れつつ、それを絶妙にやわらかにしているのもいい。嘘をついていないと思う。最後の集合シーンをサッと終わらせるところもうまい(つい、じっくりやってしまいがちなシーンですよね)。

……あなたの“そんな夜”に忍びに来るのが、こんなご機嫌なヤツラなんだぜ、って感じ、ほんとに素晴らしい着眼点だと思う。音楽へ持たせたい役割を、映像の作り手がしっかり認識している好例。

『mindscape』北村みなみ【111夜目】

今回、北村みなみの記事を書くにあたって、北村のVimeoアカウントを掘り下げていたら……一番下のほうにこの作品がアップされていた。おそらく、だいぶ前のものになるのだろう。再生して10秒で「あっ、学生のころの作品だな」と思って、まあいいかとブラウザバックしようとして、確かにそうしようとしたはずなのに、気がつけばどんどん作品に引き込まれてしまった。

イラスト・写真・コラージュも交えて、頭のなかと音楽のなかをどんどんとザッピングしてゆく。それぞれの技法やイメージが、決して洗練されてはいないけれど、とにかく次々と繰り出されてゆく。実際、ものすごく手数が多い。そして作家自身が、己の直感を信じていることがよく伝わる。それがとてもパワフルに感じた。そして何よりも、この作品を支えているのは音楽との見事なシンクロだ。そうだ! 絵柄の共通点こそほとんどないけれど、確かにこれは北村みなみの作品じゃないか。『The Great Little Journey』で、『baby baby』で見せていた素晴らしいテンポの良さ、リズムの捕まえかた、そして軽快さのセンスが、本作からは確かに感じられる。だから十分、最後まで楽しめるんだと思う。

こういう、いろんなスタイルをばーっと見せる作品は、そのとき受けてた・見てた授業とかにビシッと影響を受けた大学生や高校生が作りがちだと思う。僕もそうだった。けれどそれでも隠せないのがこのセンスの良さ……。北村みなみは絵がかわいい、絵がかわいいと……書き続けてしまったけれど、決してその作家のジーニアスは一つに留まらない。北村みなみの場合は、例えばここにもあるのではないか。

それにしても、コンセプトによく合ったいい音楽を引っ張ってきてんな~と思いつつ北村のウェブサイトを読んでいたら、ナントこの楽曲すらも、北村自身が作り上げたものだという。ウ、ワーオ!!