ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『春原つめあわせ』春原ロビンソン【140夜目】

「アニメーション」の範疇をどこまでにするか、は難しい問題だ。詳しい人からごく浅いテレビアニメファンまで色んな方がいらっしゃる……。『ポプテピピック』の人形アニメパートを「アニメじゃねー!w」と笑う人もいれば、実写映画とまったく同じ撮影を用いたために支援先から「金を返せ」と言われた海外のアニメーションだってある。バーチャルYouTuberは「アニメ」なのか? 『タンタンの冒険』はノミネートできないのか? 今もこの手の話題は尽きないし、結局ほとんど楽しみ目的で、ここを議論されている方も少なからずいらっしゃるんだと思う。

ちなみに僕は過激派なので、このへんくらいまででも十分「アニメーション」だと思っている。

ニコニコ動画に投稿された、超ざっくりした(着色もゼロの)殴り書きイラストにテキスト・トゥ・スピーチの音声をのせ、パラパラ漫画ですらなくただただコマを映していくだけのような動画。ニコニコ動画だと「紙芝居」って呼ばれるジャンルだ。無料で配布されていた超簡易ソフト、「ニコニコムービーメーカー」が制作に使用されている。

誰でも知る物語をパロディで描きつつ、ごく短いスケッチが続けて展開される。不思議と間の抜けたイラストによる脱力ギャグは動画コメントでツッコミが入ると輝きが増し、10代のハートをわしずかむ見事なセリフ回しで、後半ではギャップのある物語をみせる。カタルシスの持っていき方が本当にうまくて……1秒に1コマも動かないのに、頭の中では漫画よりもキャラクターが動いているようにすら感じられる。最後の「やられた!」感は、鑑賞者のツボの押さえ方があまりにも巧みだからこそ訪れるものだろう。

……このあたりにも、「アニメーション」とは何か? のヒントが隠れているような気もするんだけれど。うーん、まだまだ自分は修業が足らないナァ、と思う……。

作者の春原ロビンソンは本作含めニコニコ動画で好評を博し、後に『戦勇。』シリーズで漫画家として出発した。

『「フカシギの数え方」 おねえさんといっしょ! みんなで数えてみよう!』土居誠史【139夜目】

異色作を紹介したい。

2012年に日本科学未来館の常設展示「メディアラボ」内で行われた、企画展示「フカシギの数え方」のために制作されたショートアニメーション。「不可思議」とは、億とか京とかと同じ数字の単位の名前で、膨大な数字と人類はどう向き合うのか、について解説したミニ展示であったらしい。

ところが本作は、日本国内のみならず世界中からも反響が殺到。現在でもYouTubeで200万再生に迫る膨大なリアクションが寄せられている。一回きりの科学館用解説動画としては、異例すぎるバズを経験した作品と言えるだろう。

ポップな音楽にシンプルなイラスト。親しみやすい色彩に、はつらつとした声優の演技。知育で用いられるようなコッテコテの内容で、「同じところを2度通らない道順の数」を丁寧に数え上げていく。思い出されるのは『ドラえもん』の「バイバイン」だ。数字のケタがどんどん上がっていって、その驚きに私たちも楽しみつつ、ところが物語は途中から妙な方向へと進んでいって……。

とにかく、アイデア勝ちとしか言いようのない見事な脚本だ。決して「組み合わせ爆発」の驚きを伝えたい、という製作者側の意図から視聴者の意識が外れることなく、しかし想像以上の衝撃をもってアニメーションは驚きの結末を迎える。イラスト調も、声優の演技も、すべてが一種の伏線だと気づかされた瞬間の快感ときたら、たまらない。シンプルで、しかし考え抜かれたアイデアに、見事なアウトプットがついてきた「お手本」とすら言えるアニメーションだろう。笑えるのになぜか感動的で、涙すらにじむのにどうしてかバカバカしくて、そして同時に恐怖ですらある……。数学や、科学という学問そのものへの畏怖やロマンティックが、ここまで完結に表現された作品が、他にあっただろうか?

何度か同じことを書いてしまうけれど……テーマをみつけ、そこからブレずに――しかし最大限の衝撃を視聴者にもたらす作劇やアウトプットは、ほんとにほんとに「お手本」だな、としか言いようがないくらい。実によく出来ている作品だ。クレジットによれば、監督・脚本は有限会社デンバク ファノ デザイン所属の土居誠史。アニメーションを手掛けたのは紅白歌合戦のバック映像なども手掛けているジェレミー・サンソン(Jeremy Sanson)だという。

『ファイター「3月のライオン meets BUMP OF CHICKEN」』ポエ山【138夜目】

『ゴノレゴ』『quino』を発表したアニメーション作家・ポエ山は、その後、ノウハウを生かして様々な商業作家としてのキャリアを積んでいる。他方、別名義も含めてインディペンデントでも数々の作品を残し、ニコニコ動画全盛期には、彼らしいキュートなグラフィックを用いたボカロPVも手掛け、好評を得た。

そんな彼が、テレビアニメ「3月のライオン」3巻付属ブックレットで、実に、実にさらっと発表したことがある。BUMP OF CHICKENと「3月のライオン」がコラボレーションした「ファイター」のアニメーションMVのコンテ演出・アニメーションは、ポエ山が手がけたというのだ*1

これが、そのMVである。


僕はBUMP OF CHICKENに人生を変えられた人間なので(たぶん今も、彼らのためだけに生きている)、冷静に語ることはちょっと難しいのだが、BUMP OF CHICKENの本質である「歩き続ける孤独」や、生きることの困難、たったひとりで空を睨まなければならないこと、それでも自分にしか見えない光を追い続けるということ、その裏側には過去のあたたかで胸が締め付けられる「ぬくもりの場所」があるということ、たくさんの、無数の、(ひとつひとつはちっぽけな)カケラが次の自分の一歩を紡ぎ出すこと、守りたい誰かに本当に寄り添うことは不可能だということ、それでも傍にいたいと願うこと、誰もが自分という孤独を背負う同じ列車の乗組員であるということ――そのすべてを、卓越した演出で表現し切っていたことに、ただひたすらに感動した。久々にバンプでいいMV観たなぁ~この監督さん判ってるなぁ~と思いつつ、2014年11月末の発表から2017年夏に至るまで、その本当の作家は謎に包まれていたわけだ。

それが、ポエ山だったのだ。

この話で一番感動的なのは、ポエ山がFLASHアニメーション作家出身であるということだ。つまりBUMP OFCHICKENを広げ、認知させ、多くの10代の人生を狂わせたあの「バンプフラッシュ」を生で見知っていた世代である。かつて「バンプフラッシュ」を作ったり、鑑賞していた人々*2が、いまここでオフィシャルのBUMP OF CHICKENのMVを「本当に」作ってしまったのだ! あの頃の自分に教えてあげたい。幾千ものFLASHアニメーションが出場切符になって、空を舞い一本の線路を繋ぎ、その上を光り輝く鉄道が走り抜けて……ここにまで到達した。まるで、あの日見上げた虹の向こう側まで橋がかかったような想いだった。本当に、本当に、本当に、ショッキングなくらい、感激した。僕にとっては、変な話、生き方を変えようとまで思えたくらいの事実だった。だって、届くのだ。

同じくFLASHアニメーション作家としてキャリアをスタートさせ、現在も熱狂の上映イベント「FRENZ」で作品を発表するyama_koが、3Dアニメーションで本作に参加している。yama_koの作品はまたどこかでまとめて取り上げるけれど、とりあえずこのMVを貼っておく。そう、そういうこと、だ*3

*1:公式発表上は「監督・羽海野チカ」。ポエ山も筆者とのやりとりで「監督という立場ではなかった」としている。

*2:ポエ山本人はバンプフラッシュを発表していない。

*3:ご本人に口頭で確認しました……笑

『FRENZ 2013 一日目夜の部 オープニング -ENDLESS JOURNEY-』ポエ山【137夜目】

熱狂のオフライン上映イベント、「FRENZ」の2013年オープニング映像。毎年このオープニング映像の制作者は事前に公表されておらず、当日のクレジットでサプライズ発表されるのがお決まりになっている。だから本当は、会場にいた皆が、この映像は誰が作ったのだろう?……と、想像を巡らせながら鑑賞することをまず頭に入れておいてほしい。

……本当はもう少し解説しよかなと思ってたけど、昨日わざわざあの動画を紹介させて頂いたので、この作品の「グッと来る」ポイントはもう皆さん共有して頂けていることだろう。だから、やめておく。本当に、ポエ山は、エンターテイナーだ!

どういう依頼があったかは知らないが、「FRENZ」5周年であると同時に「FLASH★BOMB」10周年であったことをちゃんと踏まえてポエ山に声がかかって、しっかりそこをハズさないって所、そのサーヴィス精神がポエ山のまたいいところなんですよね……ほんっとに……。『quino』で魅せたあの世界観もここには見事に表現されている。イベントの名前は違うが、FLASH・動画板から続くクリエイターたちのスピリットと、聖地・新宿ロフトプラスワンの熱狂がいまも生き続けていること、そしてそれでもなお「旅人」であり続けることを見事に表現したオープニング映像だ。

ちなみにこの作品のあとすぐ、僕の上映順が来て、顔から火を噴きそうになった。

『FLASH★BOMB オープニング映像 そんなことより、注意事項~楽園』ポエ山・スキマ産業【136夜目】

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2ちゃんねるの人気爆発と共に「オフ会」のムーブメントが盛り上がる中で、FLASHカルチャーの爆心地として存在感を増していたFLASH・動画板では、有志が新作を持ち寄りオフラインで上映会を開催する流れが生まれていった。2003年に行われた上映イベント「FLASH★BOMB」は「最強の、オフ会」と銘打たれ、新宿ロフトプラスワンを借り切って7月に開催されることになる。招待客も含めればパンパンとなるチケット230枚は即完売となり、これと翌年の「FLASH★BOMB04」でFLASH板の熱気は頂点に達する。そのオープニング映像として企画されたのが、当時FLASH板で最も人気を集めたふたり、『ゴノレゴ』のポエ山と『num1000』*1のスキマ産業による合作作品だった。

2ちゃんねるなノリのオフラインイベントの、そのオープニング映像……という過去に例のないアニメーション制作に挑んだポエ山は、カメラに向かってゴノレゴがゆっくりとたばこをくゆらせながら、あの声で「お前ら、よく来たな」と一言つぶやく演出を取り入れた。それだけで大熱狂する会場の様子を想像すると、思わず鳥肌が立つ思いだ。そこから会場の「注意事項」が読み上げられるわけだが、そもそもマイクで伝えればよかった内容をアニメーションとしてここに組み込んだこと自体大きなチャレンジだったと思うし、しかも笑えるネタとして作品の盛り上げに使った事も素晴らしい采配だったと思う。と、いうかだ。そもそも映画の前の「マナー広告」で誰かを笑わせようとするって、実はここから始まったんじゃないかって思ったりするんだけれど、どうですかね?

*1:いつかちゃんと取り上げます。

『quino and the MudRock』ポエ山【135夜目】

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きのう紹介したアニメーション『quino』の外伝的作品。舞台は『quino』からXX年後、再び砂漠でひとりぼっちになったquinoが、この大地に住まう「とある存在」と出会うストーリーだ。雑誌上で連載されたものをまとめた、連作短編アニメーションになっている。

『quino』本編でその片鱗を見せつつもFLASH上で表現するにはまだ追いついていなかった(かもしれない)、ポエ山の卓越した美術センスがここでは見事にスクリーンに定着している。細やかな作り込みや「泥の存在」たちのダイナミックなアニメートは見ごたえがあり、繊細な物語にすばらしい躍動感をもたらす。『quino』も確かにそうだったけれど、寓話的な……絵本的な感じがさらに増していて、不思議で魅力的な質感がある作品だ。

セリフがないだけに、ポエ山自身が作り込んだ音楽がここでも雄弁に物語を紡いでいる。もー、これがまた本当にすっばらしい。ずーっと聴いていたい……。

ちなみにこの作品をポエ山のHP上で鑑賞すると、本編を観る前と後でメニュー画面の画像が変わるのだが、こういうところのセンスや「気をくばれる」ところとかもポエ山の魅力だったりするのです。なかなか“この感じ”を出せる表現媒体って減ってしまったなぁ……。動画サイトが普及してしまった弊害だと思う。

『quino』ポエ山【134夜目】


いま調べものをしていたら初めて知って驚いたけれど、『quino』のエピソード1が発表されたのは『ゴノレゴ』よりも前のことだったという。すぐ後だったのかなというイメージだったが……。知らない方がいらっしゃるかもしれないから、念のため書いておく。あの『ゴノレゴ』の作者が、「吉野家」を発表したのと同じ年にリリースした――20分間に及ぶ本格長編アニメーションが『quino』だ。

汚染された惑星に不時着したロボット技術者と、彼によって盗み出されたロボット「quino」。ふたりの荒野での逃避行とサバイバルを描いた作品。バンド・デシネを彷彿とさせる壮大な世界観、卓越した美術とグラフィック描写、そして漫画的であり・映画的であり・同時に非常にアニメーション然とした巧みな演出の数々がここには炸裂している。その後の作品と比較すればまだ技術的に拙い部分もあるのかもしれないが、episode Iからepisode IIにかけて技術面でも演出面でも大幅なクオリティアップを遂げているのは、初期の作品ならではの醍醐味といえるダイナミックな進歩だろう。無邪気で純粋なquinoは動きもデザインもセリフも可愛らしく、そのシビアな設定や展開と見事なコントラストになっている。ストーリーとしてサスペンスがちゃんとあるだけじゃなくて、一種人間の力には及ばない、より大きな存在に触れようと手を伸ばす作劇は非常にアーティスティックで、まるで祈りのような詩情も込められている作品だ。

ここに『ゴノレゴ』のイメージは微塵もないけれど、「ポエ山オレンジ」とも呼ぶべき独特の色味だけは健在かもしれない。重ねてだが、発表は同じく2001年。FLASH関連の流れはいつかまとめて記事にするので多くは省くものの、当時でもぶっちぎりと言っていいトータル的な作品の完成度は多くのFLASHアニメファンをしびれさせた。当時の一ヶ月がまるで一年に感じられたように、日進月歩でどんどん「とんでもない」進歩を遂げていった、あのFLASHアニメーション界隈の熱気にまで想像を巡らせてもらえたら、本当に嬉しい。

非常に印象的な音楽は、何とポエ山自身が手掛けているもの。使用された楽曲をまとめたサウンドトラックもリリースされている。余談だが、数年前一人暮らししてたときに、近所にあったブックオフで『quino』のサントラを偶然見つけて、すごい悩んだ末に申し訳なくて買わなかったな…………なんかすみません…………。

『ゴノレゴ』ポエ山【133夜目】


さて、『ゴノレゴ』である。

この作品と出会ったとき、僕はまだ中学一年生だった。2ちゃんねるへの恐怖心をようやく克服しつつあり、BakaFlaに出入りし始めていた、本当に短編アニメーションを観はじめた最初の最初のころの作品。いささか自分が幼な過ぎたこともあり、そもそもこの作品が『ゴルゴ13』のパロディであることすら認識しないまま鑑賞していた。ものすごく2ちゃんねる的なノリを引きずりつつ、同時に隆盛を極めていた「テキストサイト」のネタを引用して、ダーティーなキャラクターにあえて下世話な話をさせるという、本当に一発ネタな作品だ。けれどとにかく、流行ってしまった。2ちゃんねる的アニメーションの象徴であり、FLASHアニメーションが日本という国に知れ渡るきっかけとなり、もはや「吉野家コピペ」といえばこの絵を結びつけない人は居なくなり、文化庁のなんだかよくわからないカタログにも選ばれたりした*1歴史的作品として持ち上げられた。単刀直入にいえば、時代が求めた、少々過大評価された一本だったのだと思う。

それでも、この作品には数々のセンスがある。コピペ・キャラクター・TTSの組み合わせの妙は語るまでもないとして、まずはテロップである。緩急のついた見事な配置、全てを読み上げない取捨選択、そしてメリハリのある文字配置。シュールになるフレーズだけを見事に抜粋し、「で」や「今」でリズムを作って視聴者の目を離させない。次第に怒りのボルテージを上げていく「つゆだく」の配置の面白さや……と思ったら「小一時間問い詰めたい。」や「素人にはおすすめできない」では均等配置したりして、やたら真面目なことを言わせているかのように「視覚的」にも見せることで、また笑わせる。そもそもオリジナルの文章は太字も何もないただの平文なので、ここに感情を演出し、見事な緩急とストーリーを織り上げたポエ山の手腕は実に巧みだった。ポエ山作品で一貫している、色づくりのセンスも既に現れている。今見ても、本当によくできている作品だと思う。

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とはいえ、とはいえである。やっぱり文章もイラストも他からのパロディなわけで、そして何より、クリエイター・ポエ山の本質は、ここにはまだない。ゴノレゴシリーズって10話くらいあるけれど、「FILE 5」あたりから見せてくる映画的な演出のカッコ良さ(とバカバカしさ)は今見ても色褪せず素晴らしい。そして後述するけれど、ポエ山の一種のサービス精神はまたひとつ大きな魅力なのだ。初打席で満塁ホームランを放ち、FLASHアニメーションから旅立ったポエ山のフィルモグラフィを、少しだけれど、今日から見てゆこうと思う。

*1:これ、他のリストの選ばれ方も意味不明だし好きじゃない……。

『糸』村田朋泰【132夜目】

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人形アニメーションを中心に、人々の記憶の戸をたたくようなセンチメンタルなアニメーションを紡ぎ続ける村田朋泰。おしまいに、あまり知られていない村田の名作を紹介したい。代表作「HERO」を発表したMr.Children桜井和寿が参加する別ユニットBank Bandが発表した、中島みゆきのカヴァー「糸」のために制作されたミュージック・ビデオだ。

村田のフィルモグラフィではあまりない、何と全編平面アニメーションで作られている作品。セピア色の街の、夕方の景色が淡々と描かれてゆく。ペン画調で表現された風景画によって、切り取られる場面がもういちいち素晴らしいんだ!! ああ、もう、わかる、という感じのなつかしさと、せつなさと、そして叙情が声を上げて叫びそうなくらいの想いで押し寄せてくる。決して安直に泣かせようとしているわけではないし、多くが古ぼけた……決して綺麗とは言えない工場や排気ガスの街々なんだけれど、だからこそかすかに見えてくる光とか、生活とか、人々の息遣いに、思わず胸が締め付けられる。派手なことは何もないけれど、本当に好きなMVです。

『松が枝を結び』村田朋泰【131夜目】

『木ノ花ノ咲クヤ森』より始まった、村田の「震災五部作」*1最新作。このシリーズでは最も村田の人気作品に近い作風で、可愛らしいキャラクターがアイコンタクトを交わし、どこかなつかしい景色が巧みな表現によって描かれて、そしてそれらが……大津波によりばらばらに引き裂かれてゆくまでが描かれてゆく。

仲良しの女の子のふたごは、どこへ行くにもいつもいっしょ。同じ森で遊び、同じ道で遊び、同じように雨宿りをして。けれど、あの大きな揺れの日、なぜか私たちはささいなことでケンカしてしまって、姿も形もまるで鏡のように一緒なのに、ふたりは大きな力によって現世と黄泉に引き離される。クスッとなるようなシーンも挟みつつ、村田らしい時間軸の前後をも操りながら、やがてその決定的な断絶の瞬間に向かって、物語はひたひたと、そして淡々と進んでゆく。ストーリー自体は大枠でしか把握できないのに、積み重ねられる様々なディティールが、海岸線をこえて鑑賞者である私たちをも飲み込んでゆく。

とても暗い作品だけれど、個人的には『白の路』と並ぶくらいキャッチーな内容に仕上がっていると思う。きっと多くの人が共有し、忘れていたはずの記憶の戸をたたき、最後には自然と涙するだろう。いま、村田の作品をまとめた『夢の記憶装置』という特集上映が全国巡回中なんだけれど、この作品で迎えるクライマックスの壮絶さは暴力的なほどだった。とっても、おすすめです。

*1:ここまで三部作と書いてしまっていたけれど、ホームページによるとあと2本作るみたいですね……!