ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『baby baby feat. minan(lyrical school)』北村みなみ【110夜目】


このサムネで「あれ?まだ見たことないかな?」って思ったキミ!今すぐ見よう!これは最高です。

とにかく絵が可愛すぎるアニメーション作家・北村みなみの2016年の作品。brinqのミュージック・ビデオだ。音楽の良さもあるけれど、ここで北村の絵がただキュートなだけでなく、あるカルチャーに密接にコミットしたポップ&アートにまで仕上げられていることは素晴らしい飛躍だ。どこからどこまでもがめちゃめちゃハイセンス! リリックデザインを手がけたデザイナー・山田和寛の貢献も大きいだろう。そしてもちろん、そのリリックを素晴らしくユニークに動かしている、北村の腕も冴え渡りまくりだ。

そして、テンポが素晴らしい! 音楽のリズム、そしてグルーヴをしっかり捕まえていると思う。スイングして、ジャンプして、フロアの音楽はいつまでも鳴り止まない! それほど多くは再生されていない作品なんだけれど、これはもうちょっと話題になってもいいと思う。

『恋桜』北村みなみ【109夜目】


最近の僕のイチオシ、北村みなみの作品のひとつ。昨日の『The Great Little Journey』からおよそ一年前? の作品。長尺なこともあるが、ゆったりとストーリーが進んでゆく。おそらくアシスタントなしで、北村一人で最後まで描き上げたものなのだろう。

はぁ……もうほんと可愛い……可愛い……ちょっとした気配りの連続なんだと思うけれど、どこでも絵がちゃんと可愛い。そして「線」がとても綺麗だ。……なんかあんまり書くことないなー。可愛い。

こういう、イラストチックなグラフィックがそのまんま動いてゆく、という長尺のアニメは、日本でもこれから更に増えていくと思います。いわゆる「アニメっぽい」と言われるようなグラフィックは、消えてはなくならないけれど、将来的には2/3以下まで落ちると思う。そういう意味でも、ある種の日本の転換点にあたる期間に作られた作品だ。

『SPACE SHOWER TV ID「The Great Little Journey」』北村みなみ【108夜目】

最近の僕のイチオシ作家を紹介したい。ジャン! 北村みなみである。

ね~~~~~も〜〜〜〜〜ギャン可愛である。なにこれ!?!? かわいすぎ!!!! SPACE SHOWER TVのステーションIDとして作られた『The Great Little Journey』には、トキメキが骨髄を溶かし尽くすくらいのステキ☆センスが随所に溢れている。

まずイラストとして最高に可愛らしいし、それが「可愛いまま」気持ちよく動いてくれることにも驚かされる。「音楽を楽しむ」ワンシーンごとのイメージもしっかりと今のトレンドを踏まえていて、その切り取り方も全部が素晴らしい。全部がだ! そして色彩設計が抜群だ。一番最後の落ち着け方まで一切妥協がない。実に見事なラストだと思う。パーフェクトな30秒間だ。

北村みなみは、いま勢いがあるイラストレーター&アニメーション作家の一人である。

『星宿海』丸山薫【107夜目】


この作品を最初に見たのは、自主制作のアニメーション作家が中心になって企画していたアニメーションイベント「move on web.」の、銀座アップルストアでの上映会でだった。2005年だから、僕は高校二年生かな……この作品を鑑賞して、そのクオリティの高さに心を奪われた記憶がある。一方で本作は一通りのイベント巡回が終わると事実上の封印状態になってしまい、ネットでも長らく鑑賞できない状態が続いていた。そして2012年になって、突如YouTubeで再公開がなされたのだ。

本当に嬉しかった。そして久々に鑑賞して、いろいろな感情が蘇った……。十年前、Bak@Flaで『二二九』を鑑賞したときの喜びが、ここにはもう一度再現されていた。そう、『二二九』で登場したレンレンが、本作でもう一度主人公となっていたのだ。

黄河の水源、無数の湖が広がる「星宿海」は、星が生まれるという伝説を持つ実在の場所。この作品はぜひフルスクリーンで見てほしい。最初の「語り」のシーケンスから、一気に作品世界へと引き込まれるはずだ。レンレンの細かな表情も素晴らしいし、ラストシーンでの跳躍も思わず息を飲む美しさがある。正に「このような世界観」を持っている作家でしか、作り上げることができないアニメーション作品だ。

久しぶりだね、レンレン。いま君は、いくつになっているんだろう。

『吉野の姫』丸山薫【106夜目】

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丸山薫イラストレーター・漫画家として活動する一方、2005年ごろはFLASHを用いたアニメーション制作にも本腰を入れていた。本作はFLASHアニメーション作家がユナイトしたイベント・JAWACON2005で初号公開されたほか、多数の映画祭でも上映歴を重ねた。

これまでの作品よりも圧倒的に劇映画が意識されていて、スコープサイズの画角設定や、ややシリアスな内容のストーリーも取り入れられている。かわいいし上手いしでゆったりと見ることが出来るし、改めて再見したのだが、ストーリー中の、一種の裏切り方が実にうまい。そこのテクニックの上手さが、本作のクオリティをさらに一段上にまで押し上げていると思う。映画的な演出でもある一方、このあたりのストーリーテリングは漫画家としての才能・経験が生かされているのかもしれない。これ以上漫画家からアニメーション作家を輩出させるのは(われわれが駆逐されるので)危険だと思いますね……。もし丸山のこんな手触りの短編が気に入ったら、丸山の漫画家としての著作『ストレニュアス・ライフ』や『事件記者トトコ!』もおすすめです。

音質だけ改善されると良いなぁ……。

『海防点景』丸山薫【105夜目】

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この作品をここで紹介するか迷ったんだけれど、ほんとに! こういうスタイルの作品ってあったなぁ〜みたいな気持ちになったし、最後にちょこっとアニメーションもあるから、取り上げてしまうことにした。丸山薫FLASH作品『海防点景』は、イラストと文字、そして音楽が組み合わさった……なつかしの「マルチメディア」作品である。

元々は雑誌でのイラスト連載を自身でインタラクティブ化したもののようで、さながら「音が聞こえる絵本」のような仕上がり。イラストや世界観の力がやはり素晴らしいので、今見てもとても楽しいし、可愛いし、わくわくさせてくれる内容だ。そして、こういうような「動く絵本」的な作品ってホントに、ホントに当時はいろいろあって、そして絶滅してしまったなぁ……と思ったりもして。だけどその中でも本作はやっぱりクオリティが抜けているし(短いけどね)、今だって、たまにはこういう作品があっていいんじゃないか、と思う。動画サイトや映画館が、映像の解像度を縛り付けてしまった今は、このように枠の外まで気が配られた作品はほとんど皆無になってしまった。そういう意味でも風通しがよくて、同時にグラフィック・ソフトの延長として存在していたFLASHの特異性をよく表している内容だとも思う。今こそぜひ試していただきたい作品。……FLASHなので、スマホとかだと見られないけどネ。

『十一月』丸山薫【104夜目】

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秀作『二二九』の後も、丸山はFLASHでのアニメーション制作を継続した。一方で丸山は短編漫画にも優れていて、こういう感じの――短いオチのある作品を作らせると、たまらなくうまい。『十一月』は小品だが、そのバカバカしいインパクトも含めて、観る人をとても楽しませてくれるアニメーションだ。

……ところで(ここからは、まだ観てない人は読まないでね!)、全世界のネット・ミームたちが大好きな「Longcat」ってあるじゃないですか。調べてみたのですが、4chanにLongcatが大流行して定着したのって、2004年らしくて。そしてこの作品の発表も2004年(のけっこう早い段階)なのです。もしかしてだけど、誰もが知る「Longcat」の……元ネタになったものって……実は……?

『ニニ九』丸山薫【103夜目】

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とびっきり可愛いアニメーションを紹介したい。

日本の一般家庭に「インターネット」が登場したのは1998年ごろ。1999年には人口普及率21.4%、翌2000年には37.1%に達している。ADSLiモード2ちゃんねるが登場し、GoogleAmazonが日本でサービスを開始させたのも、この頃だ。そして、インターネット上で音付きで、しかも軽量なサイズでアニメーションを楽しむことが出来た「FLASH」が急速に普及したのは、まさにこの1998年〜2003年頃にあたる。

FLASH」が画期的だったのには、いくつもの理由がある。例えば、使い方が本当に簡単だったこと。そして出回っていたあらゆるグラフィック・ソフトと、そう使用感が変わらなかったこと……。丸山薫は、現在は「ハルタ」などを中心に活躍する漫画家・イラストレーター。今でこそ再びそういう流れが生まれ始めているけれど、当時もこうして、イラストレーターがその「楽しみ」の延長線上として、FLASHアニメーションを作るケースが存在したのだ。

一方、FLASHの特徴であるベクター・ベースのグラフィックでは、ビビッドでグラフィカルな線や塗りには強みを発揮したものの、紙と鉛筆で描いたような……緻密でグラデーションの美しいものは、表現しづらかったところがある。丸山は、自身の強みを最も生かしたビットマップ・ベースでアニメーションを構築し、この秀作、『二二九』を送り出した。2003年春のことだった。

いま見ても全く色褪せないグラフィックの美しさ、ワクワクする音楽、夜明けの空気、素晴らしい美術設定、そして疾走感。砂煙が巻き上がり、日の出の方向から輸送機が見えてきたときの、あの景色は今でも心を、中学生のときの自分にまで戻してくれる。オチもとても粋だ。あのころ、いきなりこんなハイクオリティなアニメーションが飛び出してきて、FLASH界隈のみなさんが多少ザワついた(笑)ことにまで思い馳せていただけたら、さらに嬉しい(ちなみに『ほしのこえ』が発表される約半年前の作品である)。

本作含め、きょうから紹介する丸山のアニメーションは、全てホームページから閲覧することが出来る。

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もう一枚、好きなキャプを。

『Notre chambre われわれの部屋』折笠良【102夜目】

折笠のその制作スタイルは、逆に言えば、コンペに全ての主眼を置いたものでもないし、映画館での興行を目指されたものでもない。エンターテインメントとして仕上がってはいるけれど、最初からそこを狙っているわけでもない(と僕は認識している)。つまり、彼が制作を終えた段階で、(チャンスが無ければ)世に放たれることなく作品が眠ってしまう可能性もあるということだ。

本作は『水準原点』とほぼ同時期に制作されていながら、発表の機会は『水準原点』よりも圧倒的に少なかった。自分については、本当についこの間の、新千歳空港国際アニメーション映画祭でようやく鑑賞できた作品。その後すぐにあった作家のトーク・セッションによれば、『水準原点』と本作はまるで一対のような内容にも思えるという。前者は作家の困難・苦しみを描き、そして本作には、一種の幸福感が宿っている。

フランスの哲学者、ロラン・バルトの著作を少しづつ原書で読んでいった体験を1本のフィルムに繋いだもので、多少大変なこともあったのかもだけれど、全体的には楽しそうな雰囲気が伝わってくる。その分、他の作品よりはカメラがやや内向きにも感じられる。これまでよりもさらに、よりアニメーション作家ーテクストの著作者、という関係性を鑑賞者が俯瞰しているようなイメージ。まるでダンスするみたいに、戯れるようにそれと向かい合う姿は、アニメーション作品に秘められた更なる可能性と、そして……なにかひとつ、大きな勇気をもらえているような気さえするのだ。

アニメーションは、圧倒的に自由で、そして“物語”にこれほどにも強い表現媒体である。色々な作品が、生まれてほしいし、生みださなければいけないな、と思う。折笠の作品は、永久に私たちの勇気であり続ける。

『ことの次第』折笠良【101夜目】

 
「で、折笠良がすごいのは判ったけど、これってどうお金にコミットするの?」という疑問をもつ方は、少なからずいらっしゃるかもしれない。彼のストイックで孤高なスタイルは、商業の世界と一瞬縁遠いようにも思われる。そんな疑問を、折笠は今年、見事に粉砕した。今夜紹介するのは、ミュージシャン・環ROYのミュージック・ビデオ。

折笠のこれまでの「研究テーマ」を見事にシンクロさせながら、誰も見たことがないような衝撃の映像に仕上がっている。こういう、歌詞をどんどん活字にして見せていくミュージック・ビデオを「リリック・ビデオ」と言うのだが、折笠に作らせれば、まずスタート地点の着想からここまで異なるものになる。そして同時に、具体的に日本語が浮かび上がる瞬間はそれほどないにもかかわらず、ミュージシャンのラップと言葉は、このアニメーションによってこそ、ぐっと前に出て聞こえてくる。

折笠も勿論すごいんだけれど、この曲とこの歌詞が出来上がった時点で「これは折笠良だ!」って最初に言いだした人もホントに同じくらいすごいと思う。クリエイター・作家同士の、パーフェクトすぎるシンクロだ。言葉も、意味も、音節も、活字も切り離されて、まだ名前のつく前の「何か」にまで解体されて、わたしたちの前を漂って。

<言葉は記号の次の記号/比喩が結びついて意味になるもの/不完全で関係性がいつでも必要  世界そのもの><鳴き声は整理され声に変わる/声は言葉となって意味を纏う/意味は時と場を僕らに与え/時と場は物語を紡いでる>