ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『スイート・スイート・スイートホーム』熱湯【22夜目】

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FLASHというジャンルで活躍していた、熱湯の代表作といえる一本。まるで小演劇のような一幕モノで、居間のちゃぶ台を中心に、とある一家が座っている。まずは父が話し始める。「毎度お馴染み家族大喜利……司会のお父さんです」。誰一人クスリともせずに、淡々と“大喜利”は進んで行く。そしてアニメならではのカットインが入る……。

短い尺にコントがぎゅっと詰め込まれていて、笑えるし、何より、途中からこの物語の「ホントウ」が明らかになるのが上手い。後半に「どんでん返し」があるのだ。クスクスしながらつい油断していると、ちょっとグッとさせられてしまう演出。これまでの熱湯作品にはないアプローチだった。こんなお姉ちゃんが欲しくなかった?

当時まだ世間的には流行り始めたばかりの、「萌え」という言葉をテーマにした「お題」が出されたFLASH・動画板のオンラインイベントに出展されていた作品。数々の作品が美少女の「萌え」を記号的に表現する中で、あえてこれまでの作風からも離れたユニークなアプローチを試みた秀作。とにかく笑ってもらおう、というこれまでの目標を越えて、作家が「その次」を目指し始めたような、そんな一種の覚悟も伝わるような作品。

『コークスクリューバレンタイン』熱湯【21夜目】

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インタラクティブな仕掛けで映像を2パターン見せるやり方は、ビデオ作品では少々誘導が難しいんだけれど、この作品は最初にふたつのボタンがあって、クリックしたほうが再生される仕組みになっていた……ので、とても入りやすかった。全く同じ内容のアニメーションで、「BGM版」と「セリフつき版」の二つを楽しめるという内容。もちろん「セリフつき版」のほうにギャグが詰め込まれている。いわゆる「映像で一言」の拡張版だけれど、最初からオチを出さずに、小出しでどんどん(とんでもない)情報が明らかになっていく様子が楽しい。そして、うまい。面白いなぁ……。

当時の2ちゃんねるFLASH・動画板」には、季節毎や祝日毎に新作を発表するオンラインのイベント(お題、みたいな感じで)が有志で用意されていて、熱湯もこういったイベントに合わせて、ハイペースで作品をリリースしていた。この作品のテーマは「バレンタイン」だ。本当に、お手軽にアニメーションを発表していた、そして鑑賞することが出来ていた季節だったんだなあ、と思う。

何か、松本慶介(さん)の作風に似てる……。

『ATM1224』熱湯【20夜目】

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まったく別件で、他の方にこの作品を紹介する機会があって、改めて……ずば抜けて面白いコンセプトの作品だなと思ったのだ。アニメーションが始まると、ATMを模した画面があらわれる。しかしどのボタンを押しても、ATM内の受付係の彼女はお金を引き出させてはくれない。それどころか、あらゆる口車を使いながら(現金を引き出そうとする)男性を妨害しにかかるのだ。「お金なんて降ろさせない!どうせこれから彼女とよろしくやるんでしょ? 今日はクリスマスイブだもんね!」

「ボタンを押せる」FLASHならではのインターフェース、どキャッチーなキャラクター*1、そして何よりも、その意外かつ観客共感度の高すぎるストーリー。ATMという、生活にべったり密着した機械をこうして題材にすること自体、どうしてこれまで誰も思いつかなかったのだろうか。老若男女が楽しめるコンセプトだ(アニメーションでやる必然性すらある!)。スクリプトもいちいち笑えるし、どこかやさしいユーモアが感じられる。「もう、ぜぇーったい下ろさせない!」の喋り方なんてたまらない! オチの付き方もグッドだ。

いま見ても、まったく色褪せていない作品なのが素晴らしい。昔は、沢山ある熱湯作品のひとつととらえていたけれど、もしかすると一番の「後世に残したい」作品ってこれかもしれない……。誰にログライン(1~2行で語れる作品のコンセプト)を聞かせても、すぐに「それは面白い!」って言ってもらえるような、そんなピカイチの作品です。

*1:クリスマスのカップルに嫉妬しまくる独身女性!

『スピーチ』熱湯【19夜目】

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FLASH作品をここで取り上げるのは少々躊躇する。今や動画もスマホで見るのがほとんど。だけどFLASHだとスマホじゃ再生できないし、ここにも埋め込めないし……。ということで、興味が出ましたらググって頂けたらと思います。熱湯(さん)の作品はファンも多いので、YouTubeに転載されたりしてるはず……。

FLASHアニメカルチャー発信元のひとつだった、2ちゃんねるFLASH・動画板を中心に活躍したアニメーション作家の熱湯は、思わずクスリとさせられるようなボケ倒しの会話劇が得意技だった。より正確には、「やられ役」のキャラクターに一方的にまくし立てるボケキャラを楽しむというか……。回線がまだ脆弱だった日本のインターネットで、当たり前のように「声付き」のアニメーションが楽しめるようになっていた頃の作品だ。FLASH独特のベクターベースなパキッとした色調や線に、よく映えるグラフィック。そして、そこから生まれるギャップも楽しい。そもそもスクリプトがすげえ面白いし、ツッコミ側の二人も緩くていい(最後のとこに入る前の女の子のセリフが好き*1)。声の人が、いちいち芸達者だ。

熱湯は、オリジナリティにあふれた数々の作品でその名をカルチャーに刻みつけた。そこから比べれば「スピーチ」はわりと平凡な作品だけれど、僕もここから出会ったし、この後の凝った作品から比べれば、わりと入りやすい一本なのではと思う。

*1:「じゃあ、これは、聴いてー帰りーまーす」

『family』山田園子【18夜目】

たぶん、山田園子の代表作と言えばこちらになるのだろう。非常に丁寧なコマ撮りアニメで、おばあちゃんがリンゴを切る様子を4分間、淡々と描いた作品。音の設計も素晴らしいし、何より、これもまた「感情」や「手触り」に重きを置かれていることが素晴らしい。じゃあじゃあ「家族」をテーマにアニメを作りましょう、となって、果たしてこの着想に思い至れるのかということなのだ。作り込まれたアニメートそのものが、制作者の「対象」への、やさしく、熱く、あたたかで、そして真摯なまなざしそのものにもなっている。これが「メッセージ」なのだ。セリフはない。説明もない。けれどどんなクソみたいな台詞にも、説明にも、展開にも、決して描けないような「family」の輪が、テーブルの上が、鮮烈な印象となって鑑賞者に焼き付く。本当に、抜群の作品だと思う。

作者の山田園子(さん)はこの他にも在学中に作品を残していて、コンペティションをいくつも制覇している。いまは長らくアニメーションを発表していないけれど、こないだ出たばかり!の富士屋カツヒコの漫画『打ち切り漫画家(28歳)、パパになる。』(ヤングアニマルコミックス)に、愛妻「そんたん」として登場している。さらにnoteでは山田さんの新作イラストを今でも堪能することが出来るので、こちらもおすすめです。子育てがんばってください!(お会いしたことないですが!)

『ウツのウミ』山田園子【17夜目】

昨日紹介した作品と、あした紹介する作品から比較すれば、やや初期っぽさを感じさせる山田園子のフィルムのひとつ。優れた才覚を持つ作家は、「感情」を届けようとする、という所に一つの共通点があると思う。圧倒的なグラフィックでも、声高で暑苦しいメッセージでもなく、とてもシンプルな「感情」、そこに力点を置く重要性を最初から判っているというか……。

繊細でやさしい、そして丁寧なグラフィック、真心のあるアニメート、非常に作家性を感じさせる環境音へのこだわり。けれど結局最後に残るのは、こういう心の冒険をした、相手とまた会話もしていないのに自分の中だけで語り合って、そしてどこかで通じ合ったような、そんな気持ちにさせてくれた、その「感情」の旅路……なのではと思うのだ。一番、みんながアニメーションを作っていた時代なので、これも埋もれてしまったのかもしれないけれど、やっぱり優れた作家性のある作品は強度が違うなぁ、と思います。

『bridge』山田園子【16夜目】

前の記事に続き(また?)、音楽とそのメッセージが素晴らしいショートアニメーションが、これ。もうめちゃくちゃ、もう、めちゃくちゃ大好きなんですよ……。出会ったのはもう6年以上前、『こわくない。』を何かの専門学校のコンテストに出して、その公開講評か何かで色んな作品が流れていた中の、そのひとつに入っていたのだ。何年も経ってから、YouTubeで再会できた日に、ぼろぼろ涙が出たことも忘れられない……。

気がつけば、わたしは崖の前にいる。その向こうに次の大地があって、そこには美しい黄色い花が咲いている。横を見れば違う誰かがいて、自分ひとりが渡るための「橋」を一心不乱に作っている。まるで真似をするように、わたしも土を集めて、水をすくって、金槌を振るい、汗を流しながら無我夢中で「向う側」への橋を架けようとする。一心不乱に。ただ一心不乱に。何の支えもないその「橋」は、重みに耐えかねて、周りの命たちと共に次々と崖の下へと落ちて行く。ぎゅっと目をつぶって、わたしはそれでも願うように、祈るように、金槌を振るい続ける。けれど次の瞬間、わたしの「橋」にはヒビが入って、わたしもまた奈落の底へ――。

自分の一生のすべてを懸けた、その橋がたとえ届かなくても、人はいつまでもひとりぼっちの洞窟には篭っていられない。どこに逃げてもわたしはここにいる。たったひとりでここにいる。もう夢が叶わない、その緑の大地を、わたしは思いきり走り抜けて――

こうやって書いてて、ほんとに涙が溢れてくる。こういうものが作りたかったんだよ、結局、僕は。菅井宏美による音楽もいい。「一つの私」、iTunes Storeで買っちゃったもんね……。

作者の山田園子は、この他にも素晴らしい作品を残している。

『JACK NICOLSON』イシバシミツユキ×長田悠幸【15夜目】

前の記事に続き、ところでブッチャーズといえばもうこれ! これですよね!! という作品。こちらはbloodthirsty butchersの公式MVで、漫画家の長田と映像作家のイシバシがタッグを組んで(どういう分担だったかは判らないけど)作られた名作。何とイシバシのアカウントから公式アップされていたぞ!やった!

音楽そのものの男臭さにぴったり寄り添ったグラフィック、その止め絵のカッコよさにシビれまくって、そして主人公はうだつの上がらないサラリーマンで、最後にはまた街の中に戻っていって……。まるでギターのパワーコードをジャカジャーンと掻き鳴らすような快感が全体に貫かれている快作だ。アニメーションならではの魔法ってなーんだ、って、アホが*1散々聞いてくるその問いかけへの、ベストアンサーの一つに選べるくらいの作品だと思う。

フリクリ』感もあるそのジャパンチックな絵柄はキャッチーだし、見せ場でアニメーションの快感を(ライブ会場でカメラが回るカットは、実写では絶対に撮れない……)しっかり見せてくれるところも、コンパクトな尺に感動がグッと詰まっているところも、実に実に素晴らしい。何より音楽のもつメッセージの、昇華のさせ方にしびれる。名作は往々にしてシンプルだ。そしてマヌケで、美しいんだ。こういう作品を埋めさせたくないのですよ……ほんとに……。

*1:僕もその中の一人だけど!

『banging the drum』(作者不詳)【14夜目】

前の記事に続き、こちらも完全に作者不詳の作品。bloodthirsty butchersの楽曲『banging the drum』にアニメをつけた作品なんだけれど、これも無性に大好きで……。とてもミニマムなアニメーションなんだけれど、やたらドラムが正確かつ丁寧に描写されていること、そもそも「音楽を聴く」ってどういうことか、をまさに言い当てたようなコンセプトに、何度でも心掻き毟られる。キャラクターも可愛らしい。一体どなたなんでしょう。コメント欄で「僕が昔作ったアニメですw」とかさらっと書かれていて超気になる……。藤田純平の『seasons』(2005年)感があるから多分そのすぐ後くらいに作られているのではと推測するけれど……(この楽曲の発表も2005年)。

最後、目を開けるところが本当に好き。目を開けると、彼女の周りに確かに寄り添っていた、そのいきものたちは消えてしまっているとしても。それでも。

『さよならをしること』(作者不詳)【13夜目】

長らくこうして色々作品を見ていると、「コンテストに応募されておらず、グループ展の情報もなく、作者のホームページもなく、SNSなんて普及するはるか前」であるが故に、作品だけがポーンとネットに上げられているが作者名すらよくわからないような作品と出会ったりする。これもその一つ。油画調で描かれたグラフィックの上にさらに厚塗りを重ねてゆく手法(ぬQさんと一緒ですね)で、ひとりの少年がその夏に出会い、そして別れるまでの命の旅路をファンタジックに描いている作品。特に後半の、風が吹いて光満ちてゆく様は圧巻で、心震えるほどの迫力がある。せつない……。ずいぶん経っても、時々思い出したように見たくなる作品。けれど作者が完全に不詳で、<3年前学生の時制作したアニメです>としか説明文にも書かれていない。たしか当時調べたら、多摩美かどっかの学生さんだったことまでは突き止めた記憶があるんだけれど……。うーん。

音楽もいい。とても丁寧に、真摯にモチーフ(やテーマ)と向き合いながら作られた作品だと思う。どこかに応募していればよかったのに(してたのかもだけど)。きっと、大スクリーンで映えたはずだ。