ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『動物の転校生』matsumo【90夜目】


matsumo(さん)と初めてお会いすることが出来たのは、1999年ごろに「Bak@Fla」で作品がすれ違ってから、実に10年以上後…2013年の宮城・仙台アニメーショングランプリの壇上でだった。僕は『15時30分の拍手喝采』で、matsumoはこの『動物の転校生』で、互いに同じ賞を受賞していた。

その時の上映で、嫉妬するくらい悔しさを覚えたのが、この作品だった。

短編アニメーション作品に求められる「技術力のレベル」がどんどん上がり続ける中で、10年間変わらずFLASHでの制作を続けていたmatsumoの作風は、はっきり言えばちょっと「コンペ受け」が悪いものになり始めていたと思う。しかしこの作品は、その作風のズレすらもまた「ノスタルジック」で、誰もが忘れがたいあの放課後の夕焼けのような、胸が締め付けられる作品の世界観、そしてテーマへと巧みに一致させ、昇華されていた。彼の「生き物」と「人間」の作風がここではストーリー上の必然となり、見事な対比となって劇映画としての没入感を高めていた。そして、何と言っても物語が優れていた。単に感動的なだけでなく、ここでもやはり天性といえる「尺の中に納めこむストーリーへの」カンの良さが働いていて、劇映画としてのテンポの良さを感じられるものになっている。ここまでの物語をしっかりと描き抜ける作家が果たして他に何人居るだろうか? もう、抜群だった。

「技術力のレベル」と書いてはしまったが、過去の作品と比べれば、その地力がさらに高まっていることは感じられるだろう。そして、これだけの尺だ! すごい人を僕は見逃してしまっていた、と感じさせられた。ぜひ一度全編を鑑賞して頂きたい作品。