ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『犬小屋の世界』matsumo【88夜目】


僕のもともとの「出身」はFlashだ。1998年か99年ごろ……に、当時日本におけるFLASHの第一人者だったまつむらまきおさん(現 成安造形大学教授)が運営していた作品投稿サイト「Bak@Fla」に参加したことが、アニメーション作家としての最初のきっかけになった。バカフラの話はまたいつか詳しくするとして、その当時からバカフラの常連作家だったのがmatsumoだ。彼は現在に至るまで、新作を途切れることなく発表し続けている数少ないバカフラOBのひとりである。

彼の作品の特長は何と言っても、エンターテインメントに特化したその作風にある。15年以上に及ぶキャリアの中で、こういうストーリー性の強い劇映画的な作品を一貫して作り続けているのだ。またそのどれもが親しみやすく、キャッチーで、エンタメとしてのドキドキやワクワクを高い水準でキープし続けている。それを支えているのは、実に小さな「センス」の積み重ねーー尺のまとめ方、カットの切り方、ストーリーの展開の妙、エトセトラーーだ。matsumo作品から学びとれる「面白いアニメーション」のテクニックやエッセンスが、ものすごく沢山あるのだ。

『犬小屋の世界』はmatsumoのシリーズの中でもわりと幻想的な要素が強い作品だけれど、この一種のワクワクをまっすぐ、それでいてコンパクトにまとめ上げているディレクターとしての気質の豊かさ・鋭さにはやはり圧倒される。まだADSLもない時代、音楽と効果音がついただけで驚きだったFLASHで……本気で劇映画を作ろうとしていた工夫と夢が、この作品には詰まっているのである。