ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『テレビ』青木純【27夜目】


このブログでも必ず時間を割いて紹介することになると思う、歴史的傑作――『ホーム』から数ヶ月後、青木はひとりで再び人形アニメーション制作に乗り出す。アイデアは極めてシンプルだった。ワンカットでみせる、「テレビの中に閉じ込められてしまった男」……。

秀逸なのは、やはりテンポがいいこと。実際には、カメラのレンズに頭をぶつけているはずがないのに、効果音でそれを補強しちゃんと伝えているので、結果的にこれがリズムを作り出している。映像としても、「人形アニメーション」という、必ずカメラのレンズを意識せざる終えない環境で作ることに、作劇上の一種の必然性があるのがうまい。わたしたちがのぞいているこのカメラのレンズすらも、一種の「入れ子」になっているのだ。

この作品は特に……だけれど、ウェブサイトに詳細なメイキングが載っているのも嬉しい。ちゃんとこういうのを残しているのが素晴らしいです。

『走れ!』青木純【26夜目】

「これからまだ記事を975本も書くのに、もう青木純か!? 早すぎるんじゃないか!?」的なツッコミ、ようく判ります。でもだめだ! とにかく手をつけないと始まらない……。とっておいてもしょうがない……。

青木純が「自主制作アニメーション」の王道であり、もしかすると象徴みたいな存在であることには、いくつかの理由がある。東京藝術大学デザイン科出身という「美大」の流れを持つキャリアでありながら、誰に見せても「楽しんで」もらえるポップさを持ちあわせ、一緒に親しみを持てる絵柄を操ることができて、同時に一種の「マニアックさ」すらも併せ持ち、最近ほんとこれが重要なんだなって思うようになったんだけれど、どの作品にも「皮肉」のセンスをしっかりと身につけていること。……だからと言って青木純ばっかり真似してもしょうがないのだが、とにかく10年前、「自主制作アニメーション」のスター選手だった存在を「昔の作品だ」なんて思わずにちゃんと見ておいたほうがいいと思うのです。僕は口うるさい先生か!? ごめんなさい!!!

『走れ!』は、青木純の処女作。大学の課題制作で作られたものらしく、ゴールデン・ウィークをつぶしながら制作に時間をあてたという。青木にとっては、絵を動かすことも、絵コンテを描くことも初めてだったらしい。ホームページにアップされているメイキングギャラリーを眺めてみると、そもそも何コマで動きを描くか……的なところから模索している様子がわかる。2003年は、ちょうど学生たちにフォトショップやアフターエフェクトが確実に出回り始めていた頃。もっと言うと『ほしのこえ』が完成する年。だから「フルデジタルアニメーション」であるというだけで、それは十分うりの一つだったのだ。

けれど、この作品はそんな「作り手の手間」をまるで感じさせない。わずか30秒。赤ん坊がダーッと駆け出した瞬間から、笑っちゃうような展開が次々と現れる。どの年代にも届くフックがいくらでもある。モーフィングしまくる服装、誰でも吹き出さざるを得ないスライディングベッドイン、やたら長い千鳥足シーンからの電柱ゲロ……。ああ!おもしろい!走り終えた彼の爽やかな表情ったらない。運動会の徒競走みたいな音楽も見事だ。今見返すと、5歳くらいのシーンで90度曲がるのも上手いなぁ。誰でも好きでしょ、これは……。

処女作にして、たった30秒にして、先ほどあげたようなセンスを全てまざまざと見せつけたのだから、やっぱり天才といってよいだろう。この1本だけで消えちゃう作家とかもいたりするのだが、青木はさらにこの後、キャリアを積み重ねて行くことになる。

『夏と空と僕らの未来』井端義秀【25夜目】


 一つの強いアイデアが、語り草になる作品がある。井端義秀の『夏と空と僕らの未来』なんて、正にそれだ。

作品が始まると、マンガのコマ割りがあらわれる。その中に登場人物が駆け込んでくる。今で言う「モーションコミック」風の演出……最初だけは。作品の設定はベタ中のベタだ……これも最初だけは。ある放課後、男の子は、よりによって女の子へのラブレターを机の上に置き忘れてしまう。慌てて教室まで取りに戻ると、そこには謎の少女がいて……。

圧倒的なポイントは二つ。まずは「アニメーションの中にマンガがある」というアイデアに対して。女の子と男の子のドタバタな追いかけっこは、次第にコマ割りを破壊し、縦横無尽にその上を駆け回るようになる。この「ネタ」の豊富さといったら! こういう映像自体は、初めて観るものではきっとないだろう。しかし10分近くもあるこの作品では、この「マンガである」というコンセプトが最後まで徹底的に貫かれている。それがまた、この「ワンアイデア」で思いつくものはほぼ出尽くしたのではないか、というほどに詰め込まれ、また作り込まれているのだ。つまり、このネタの金字塔となっているのだ。そこが素晴らしい! これから十年間、同じようなネタを誰かがやったとしても、これを上回れるかはちょっと疑問だ。単に視聴者を楽しませてくれるだけでなく、シナリオの切り替えポイントで効果的な「演出」にきちんとなっているのもまた、本当に抜群なのだ。内容自体にこの演出の必然性があったのだ。

もうひとつはシナリオだ。まるで僕たちの甘酸っぱい青春漫画のような、タイトルにもある『夏と空と僕らの未来』なんて青臭い単語を3つも並べちゃうみたいな……そんな風通しのある演出そのものが、このシナリオの一種の「皮肉」になっている。とても残酷な真実が、後半では明らかになる。だけれど、でもそれでも、僕たちはきっと未来を信じて、そして想いを届けようとするのだろうーー。一瞬を燃やし尽くして夏の青空に、僕らの未来をふわりと浮かべる、そんな青春の爽やかなラストシーンに、ちくりと乗っかる「痛み」が観るものを決して離さない。たぶんこれは、あなたにとっても忘れられない物語になるだろう。

やっぱり、ワンアイデアだけではエヴァーグリーンにならないのだ。ここの、この瞬間に刻みつけた「王道」の「想い」があるから、この作品は未だに色褪せることがない。映像の面でも、シナリオの面でも、それぞれのキャッチーさが見事に噛み合って、それが昇華されている傑作だ。実に見事な作品だと思う。

作者の井端は、この次に『ツキ姉と僕』という作品を発表したのち、商業作品に軸足を移す。その後はテレビアニメの世界で着実にキャリアを積んでいらっしゃっていて、『四月は君の嘘』の素晴らしい回を見終えた後に、井端(さん)の名前を「絵コンテ・演出」欄で発見することが出来た時には、言葉にならない感動があった。その時たまたま、ネット上で言葉を交わすことが出来てすごく嬉しかった。井端(さん)は2017年現在も、テレビアニメの演出家として活躍している。

『アメリカンホームコメディ』熱湯【24夜目】

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前作『山田君ロックンロール』で、会場に集まった観客に手拍子を促す「参加型」アニメーションを提唱した熱湯。彼はこの作品で、さらにとんでもないことを企む。作品が始まると、(『フルハウス』みたいな)いかにものアメリカン・ファミリーがテーブルに座っている。その手前に、プロレスのお面をかぶった男がこちらへスケッチブックを向けている。そこにはこう書かれていた。……『大爆笑して!』。

「ライブ」の熱狂をスクリーンに再現した熱湯が次に思いついたのは、より映像という媒体に密着した……「シットコム」の会場での再現だった。謎の男から、指示が次々と示される。『えーって言って!』『拍手して!』。なぜかアメリカン・ファミリーすらこっちを見て(第四の壁が破壊されている)いて、こちらがアクションを起こさないと、画面内のアメリカン・ファミリーの話はまるで進まない。はちゃめちゃだ! さらに!! この一回限りの上映の、観客の拍手や声を録音し、後日アニメーションと「合体」させたバージョンがネットで発表されたのだ。さながら本物のシットコムのように! 今振り返っても、あまりにも斬新で、ほかに類をみない革新的なアイデアだっただろう。鳥肌が立つような思いだ。

さらにだ! 熱湯のウェブサイトのフィルモグラフィーからはカットされているが、実はこの後にもう一本、熱湯には『うたとリズムのわくわくキャラバン』という作品があった。これは「slashup★02」というオフラインイベント用に作られたもので、作品が始まるとうたのおねえさんが出てきて、「リズムにあわせて足を踏みならそう!」みたいな指示を観客に出すというものだった。もともと「slashup★02」は東京、大阪、さらに札幌や博多での開催も予定された「全国ツアー」イベントだったが、観客が集まらずに2公演が中止された。後で熱湯(さん)の掲示板に自分で聞いてみたのだけれど……実は『うたとリズムのわくわくキャラバン』は、各会場ごとに内容を変えていて、例えば東京では足踏み、大阪では手拍子……といったように、指示するものが違うはずだったらしい。そしてそれを録音し、最後には全部合体させた全国バージョンをネットに発表する積もりだったとか! や、やばい……。残念ながら「slashup★02」は観客を集めきれず、このコンセプトも消滅。熱湯にとっても、これが最後のアニメーション作品となった。FLASH・動画板でのアニメーションの盛り上がりが、終息に向かいつつあることを証明するような出来事でもあった。

スクショは、公開終了時にアップされていた画像より。

『山田君ロックンロール』熱湯【23夜目】

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熱湯がもうひとつ革新的だったのは、このころ勃興していた「オンライン上映会」に(この作品で)新しいアイデアを吹き込んだことだ。インターネット上にアップされたものを各自のPCで見ながら、2ちゃんねるの専用スレッドに感想を書き込み、たまに誰かがブログに感想をまとめたりもする、そういうスタイルを越えて、実際に大きなホールを借り切って作品上映……。中の人的に繋がりはないものの、今の「FRENZ」に続く流れをくんだ上映会が巻き起こり始めていた。より大スクリーンで、より大音響で、そして全員で「神職人」たちの新作を楽しむ……。熱湯は、その流れにも、ユニークかつ独特で、そして大胆なアプローチを試みたのだ。

内容自体は、もう見て頂くしかないのだが、とにかく劇中でコミックソングが唄われるというもの。しかしすごかったのはここからだ。その画面の隅っこに、4つ打ちのリズムに合わせて点滅する丸いマークをつけたのだ。「拍手インジケータ」と名づけられたそれは、観客に「このリズムに合わせて手拍子を打ってくれ!」と促すものだった。当日、その会場に僕はいなかったけれど……それでも熱狂が伝わってくる。歌と拍手が一体になる、全く新しい「オフライン上映会」に特化したアニメーションのアイデア。ああ、くやしい。こんなやり方もあったのか!

アニメーション一本で観客に拍手を促し、会場を一体化させる。音楽は盛り上がり、爆笑は爆笑を呼ぶ。この観客参加型のエンターテインメントの提供は、今思えば「応援上映」の先取りではないか。この革新的なアイデアで、熱湯は一気に、オフライン上映会に欠かせない存在としてその名をあげることとなったのだ。

『スイート・スイート・スイートホーム』熱湯【22夜目】

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FLASHというジャンルで活躍していた、熱湯の代表作といえる一本。まるで小演劇のような一幕モノで、居間のちゃぶ台を中心に、とある一家が座っている。まずは父が話し始める。「毎度お馴染み家族大喜利……司会のお父さんです」。誰一人クスリともせずに、淡々と“大喜利”は進んで行く。そしてアニメならではのカットインが入る……。

短い尺にコントがぎゅっと詰め込まれていて、笑えるし、何より、途中からこの物語の「ホントウ」が明らかになるのが上手い。後半に「どんでん返し」があるのだ。クスクスしながらつい油断していると、ちょっとグッとさせられてしまう演出。これまでの熱湯作品にはないアプローチだった。こんなお姉ちゃんが欲しくなかった?

当時まだ世間的には流行り始めたばかりの、「萌え」という言葉をテーマにした「お題」が出されたFLASH・動画板のオンラインイベントに出展されていた作品。数々の作品が美少女の「萌え」を記号的に表現する中で、あえてこれまでの作風からも離れたユニークなアプローチを試みた秀作。とにかく笑ってもらおう、というこれまでの目標を越えて、作家が「その次」を目指し始めたような、そんな一種の覚悟も伝わるような作品。

『コークスクリューバレンタイン』熱湯【21夜目】

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インタラクティブな仕掛けで映像を2パターン見せるやり方は、ビデオ作品では少々誘導が難しいんだけれど、この作品は最初にふたつのボタンがあって、クリックしたほうが再生される仕組みになっていた……ので、とても入りやすかった。全く同じ内容のアニメーションで、「BGM版」と「セリフつき版」の二つを楽しめるという内容。もちろん「セリフつき版」のほうにギャグが詰め込まれている。いわゆる「映像で一言」の拡張版だけれど、最初からオチを出さずに、小出しでどんどん(とんでもない)情報が明らかになっていく様子が楽しい。そして、うまい。面白いなぁ……。

当時の2ちゃんねるFLASH・動画板」には、季節毎や祝日毎に新作を発表するオンラインのイベント(お題、みたいな感じで)が有志で用意されていて、熱湯もこういったイベントに合わせて、ハイペースで作品をリリースしていた。この作品のテーマは「バレンタイン」だ。本当に、お手軽にアニメーションを発表していた、そして鑑賞することが出来ていた季節だったんだなあ、と思う。

何か、松本慶介(さん)の作風に似てる……。

『ATM1224』熱湯【20夜目】

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まったく別件で、他の方にこの作品を紹介する機会があって、改めて……ずば抜けて面白いコンセプトの作品だなと思ったのだ。アニメーションが始まると、ATMを模した画面があらわれる。しかしどのボタンを押しても、ATM内の受付係の彼女はお金を引き出させてはくれない。それどころか、あらゆる口車を使いながら(現金を引き出そうとする)男性を妨害しにかかるのだ。「お金なんて降ろさせない!どうせこれから彼女とよろしくやるんでしょ? 今日はクリスマスイブだもんね!」

「ボタンを押せる」FLASHならではのインターフェース、どキャッチーなキャラクター*1、そして何よりも、その意外かつ観客共感度の高すぎるストーリー。ATMという、生活にべったり密着した機械をこうして題材にすること自体、どうしてこれまで誰も思いつかなかったのだろうか。老若男女が楽しめるコンセプトだ(アニメーションでやる必然性すらある!)。スクリプトもいちいち笑えるし、どこかやさしいユーモアが感じられる。「もう、ぜぇーったい下ろさせない!」の喋り方なんてたまらない! オチの付き方もグッドだ。

いま見ても、まったく色褪せていない作品なのが素晴らしい。昔は、沢山ある熱湯作品のひとつととらえていたけれど、もしかすると一番の「後世に残したい」作品ってこれかもしれない……。誰にログライン(1~2行で語れる作品のコンセプト)を聞かせても、すぐに「それは面白い!」って言ってもらえるような、そんなピカイチの作品です。

*1:クリスマスのカップルに嫉妬しまくる独身女性!

『スピーチ』熱湯【19夜目】

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FLASH作品をここで取り上げるのは少々躊躇する。今や動画もスマホで見るのがほとんど。だけどFLASHだとスマホじゃ再生できないし、ここにも埋め込めないし……。ということで、興味が出ましたらググって頂けたらと思います。熱湯(さん)の作品はファンも多いので、YouTubeに転載されたりしてるはず……。

FLASHアニメカルチャー発信元のひとつだった、2ちゃんねるFLASH・動画板を中心に活躍したアニメーション作家の熱湯は、思わずクスリとさせられるようなボケ倒しの会話劇が得意技だった。より正確には、「やられ役」のキャラクターに一方的にまくし立てるボケキャラを楽しむというか……。回線がまだ脆弱だった日本のインターネットで、当たり前のように「声付き」のアニメーションが楽しめるようになっていた頃の作品だ。FLASH独特のベクターベースなパキッとした色調や線に、よく映えるグラフィック。そして、そこから生まれるギャップも楽しい。そもそもスクリプトがすげえ面白いし、ツッコミ側の二人も緩くていい(最後のとこに入る前の女の子のセリフが好き*1)。声の人が、いちいち芸達者だ。

熱湯は、オリジナリティにあふれた数々の作品でその名をカルチャーに刻みつけた。そこから比べれば「スピーチ」はわりと平凡な作品だけれど、僕もここから出会ったし、この後の凝った作品から比べれば、わりと入りやすい一本なのではと思う。

*1:「じゃあ、これは、聴いてー帰りーまーす」

『family』山田園子【18夜目】

たぶん、山田園子の代表作と言えばこちらになるのだろう。非常に丁寧なコマ撮りアニメで、おばあちゃんがリンゴを切る様子を4分間、淡々と描いた作品。音の設計も素晴らしいし、何より、これもまた「感情」や「手触り」に重きを置かれていることが素晴らしい。じゃあじゃあ「家族」をテーマにアニメを作りましょう、となって、果たしてこの着想に思い至れるのかということなのだ。作り込まれたアニメートそのものが、制作者の「対象」への、やさしく、熱く、あたたかで、そして真摯なまなざしそのものにもなっている。これが「メッセージ」なのだ。セリフはない。説明もない。けれどどんなクソみたいな台詞にも、説明にも、展開にも、決して描けないような「family」の輪が、テーブルの上が、鮮烈な印象となって鑑賞者に焼き付く。本当に、抜群の作品だと思う。

作者の山田園子(さん)はこの他にも在学中に作品を残していて、コンペティションをいくつも制覇している。いまは長らくアニメーションを発表していないけれど、こないだ出たばかり!の富士屋カツヒコの漫画『打ち切り漫画家(28歳)、パパになる。』(ヤングアニマルコミックス)に、愛妻「そんたん」として登場している。さらにnoteでは山田さんの新作イラストを今でも堪能することが出来るので、こちらもおすすめです。子育てがんばってください!(お会いしたことないですが!)