ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『走れ!』青木純【26夜目】

「これからまだ記事を975本も書くのに、もう青木純か!? 早すぎるんじゃないか!?」的なツッコミ、ようく判ります。でもだめだ! とにかく手をつけないと始まらない……。とっておいてもしょうがない……。

青木純が「自主制作アニメーション」の王道であり、もしかすると象徴みたいな存在であることには、いくつかの理由がある。東京藝術大学デザイン科出身という「美大」の流れを持つキャリアでありながら、誰に見せても「楽しんで」もらえるポップさを持ちあわせ、一緒に親しみを持てる絵柄を操ることができて、同時に一種の「マニアックさ」すらも併せ持ち、最近ほんとこれが重要なんだなって思うようになったんだけれど、どの作品にも「皮肉」のセンスをしっかりと身につけていること。……だからと言って青木純ばっかり真似してもしょうがないのだが、とにかく10年前、「自主制作アニメーション」のスター選手だった存在を「昔の作品だ」なんて思わずにちゃんと見ておいたほうがいいと思うのです。僕は口うるさい先生か!? ごめんなさい!!!

『走れ!』は、青木純の処女作。大学の課題制作で作られたものらしく、ゴールデン・ウィークをつぶしながら制作に時間をあてたという。青木にとっては、絵を動かすことも、絵コンテを描くことも初めてだったらしい。ホームページにアップされているメイキングギャラリーを眺めてみると、そもそも何コマで動きを描くか……的なところから模索している様子がわかる。2003年は、ちょうど学生たちにフォトショップやアフターエフェクトが確実に出回り始めていた頃。もっと言うと『ほしのこえ』が完成する年。だから「フルデジタルアニメーション」であるというだけで、それは十分うりの一つだったのだ。

けれど、この作品はそんな「作り手の手間」をまるで感じさせない。わずか30秒。赤ん坊がダーッと駆け出した瞬間から、笑っちゃうような展開が次々と現れる。どの年代にも届くフックがいくらでもある。モーフィングしまくる服装、誰でも吹き出さざるを得ないスライディングベッドイン、やたら長い千鳥足シーンからの電柱ゲロ……。ああ!おもしろい!走り終えた彼の爽やかな表情ったらない。運動会の徒競走みたいな音楽も見事だ。今見返すと、5歳くらいのシーンで90度曲がるのも上手いなぁ。誰でも好きでしょ、これは……。

処女作にして、たった30秒にして、先ほどあげたようなセンスを全てまざまざと見せつけたのだから、やっぱり天才といってよいだろう。この1本だけで消えちゃう作家とかもいたりするのだが、青木はさらにこの後、キャリアを積み重ねて行くことになる。