ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『白の路』村田朋泰【126夜目】

HERO (通常盤)

Mr.Childrenのキャリアを代表するミュージック・ビデオとして、そして55万枚を売り上げた大ヒット・シングル『HERO』のジャケット・アートとして、あまりにも有名な『白の路』は村田の代表作と言えるだろう。だが『HERO』のミュージック・ビデオが、あくまでこの『白の路』の抜粋でしかないことはあまり知られていない。『HERO』が大好きな方は、ぜひ『白の路』の完全版も鑑賞して頂きたい。単純に、尺が、3倍くらいありますので。

傑作『朱の路』の精神的続編であり、その後『路』シリーズとしてまとめられる『白の路』。父と娘をテーマにしていた前作から変わり、今度は男と、幼い日の記憶をめぐる旅が始まってゆく。あの日の少年とすれ違う雪道。共に過ごした、永遠のような短い時間。それほど明るくない午後の日差し、夕焼け、風。生き続けるはずだった命と向かい合い、彼岸まで進み続けるボート。そしてさよならを告げるためのバス――。

何気ない瞬間も混ざっているからこそ、記憶をめぐる旅のせつなさは増してゆく。漂白され、何も出来ず、ただ立ち尽くすしかないとしても、わたしたちは痛みを共にするために進み続けなければならない。断片的で、抒情的で、なぜか同じ「痛み」を記憶の底から引っ張り出されるような、不思議でさびしい秀作。

まず「場」を作り、登場人物に演じてもらい、そこからフィルムの上で起きる「奇跡」を信じようとする作り方は、個人的にはとても実写映画的だなと思う。そこも村田作品が好きな理由の一つです。