ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『MY HOME』児玉徹郎【94夜目】


突然ですが、新海誠たつき(irodori)、吉浦康裕に石田祐康までをも輩出した……日本で最も歴史の古いデジタルアニメーションコンテスト「CGアニメコンテスト」で、グランプリを獲る方法を教えよう。それ以前にも同コンテストはロマのフ比嘉などを輩出していたが、2000年(第12回)に新海誠の『彼女と彼女の猫』が受賞して以来、その後の17年間でグランプリは2本しか出ていない。一つは2011年(第23回)*1グランプリの『これくらいで歌う』(椙本晃佑)。そしてもうひとつが、2005年(第17回)グランプリの本作『MY HOME』(応募時名義:木霊)だ。

都会の冷たいマンションに囲まれた小さな緑地。そこへ集う3人の男――。あっけらかんとした男たちが、時に意外な特技を発揮させながら、夢の「MY HOME」へと挑んでゆく。2005年当時もわりとハイカラな印象だった3DCGや落ち着いた美術も魅力的だが、やはりまず驚かされるのが! この地味なオッサンたちを主人公に据えていることだろう(笑)少年でもない、美少女でもない、そんな彼らの生き生きとした表情が物語の推進力になり、視聴者へ「夢」を次々と届けてくれる。それが決して本物通りではなかったとしても……。ミュージックビデオ風に描かれているが、決して歌詞に寄り添いすぎることがなく、素晴らしいBGMとして音楽がしっかり機能している(いい声ですよね)。そしてある種、想像の範囲内である悲しい展開が、わたしたちの予想を大きく越える羽ばたきを見せるラストシーンはいつだって美しい! なんてこった! だ。こういうことがやりたいんだ僕は……。セリフもない、シンプルでゆったりとしたカット数で、特に難しい内容も何もないんだけれど、人生の普遍を、神様よりも大きな示唆を、この作品は最高の輝きをもって真空パックさせているのだ。こういうのが「泣ける」作品なのだと思う。もう、大好きです……。

そして、気が付いただろうか? 『彼女と彼女の猫』、『これくらいで歌う』、そして『MY HOME』――。この3本には極めて大きな共通点がある。作品のテーマがいずれも、ミクロな視点からマクロへと世界を広げる――とても暖かで真っ直ぐな「人間賛歌」になっているのだ。何度でも夢を描く、もう一度この世界のことを愛そうと思う、大地の上でわたしだけの唄を唄う……。生きてゆくということそのものの肯定が、人間の真の美しさが、少しの苦みも交えながら……あくまで等身大で、そして力強く描かれているのだ。過去、様々な作品がこのコンテストのグランプリ枠に挑んでいたが――確かにこの3本だけは、ストレートな「人間賛歌」という点でずば抜けていた。これなのだ! 何て素晴らしい評価軸なのだろう(と思うのは僕だけかもだが……)。そういうわけで、これから「CGアニメコンテスト」に応募する皆さん、グランプリを獲りたかったら……「人間賛歌」ですよ! 

*1:大変光栄なことに、拙作『雨ふらば 風ふかば』を入選させていただいた年でもある。