ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『RUNNINGMAN』児玉徹郎【95夜目】

さて、傑作『MY HOME』を発表した児玉徹郎について触れたい。児玉はいくつかの作品でCGアニメコンテストや、「デジスタ」の黄金期を支えた中心作家のひとりだった。「背景職人」を自称されていたこともあり、作品における背景美術はどれも素晴らしい。しかし同時に彼は、オリジナルワークでは特に「背景」をプッシュしたものを作ることはない。必ずキャラクターがあり、観客の目線は常にキャラクターやストーリーに向けられるよう設計されている。その力は発揮させつつも、「背景」は「背景」です、という辺りのバランス感覚は、個人的にはけっこう好きだ。その点を踏まえても、なんとなく建築家のようなイメージがある作家である。

そして、もうひとつの「児玉っぽさ」についても。こちらの『RUNNINGMAN』は、すごいぞ。なぜって、ここでも主人公がただのオッサンなのだ……!しかも「肥ったおじさんがジャージ姿で汗流しながらランニングしてるシーン」が実に尺の半分を占めているのである。これ、すごくない? 『MY HOME』もそうだけれど、間違いなく児玉の大きな個性のひとつがここにある。ある種の泥臭いモチーフを選びつつも、ささやかな日常をその背景の中に映し出し、小さな希望や愛について唄う。『RUNNINGMAN』の、問題が解決しているようであんまり解決していない(笑)クライマックスも、どちらかというと、わたしたちに物語を返してくれたもののように感じ取れるだろう。

児玉は2012年に「株式会社ECHOES(エコーズ)」を設立。現在もトゥーンベースの3DCGアニメーションを中心に、オリジナル作品*1やクライアント・ワークでその手腕を発揮している。つい最近だと、あの『プリキュア』のエンディングアニメーションを、初めて東映社外から受注し制作したことでも話題を集めた。オフィシャル・チャンネルからは、この映像が無料で配信されている。お、おじさんが一人も出てこないぞ!!

*1:最近だと結婚式のドタバタを描いた『Curly』など。