ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『JAM FISH』飯田千里【86夜目】


子どもの頃から、車に乗るのが苦手だった。中は狭いし、移動は長いし、臭いはするし、退屈だし……。愛知方面の田舎に帰るときの、東名高速は特に嫌いだ。渋滞がものすごかった。今でも電車旅が好きなのは、クルマと比べて車内が広くて、降りようと思えばいつでも降りられるところだ。自分が運転する立場になれば、変わるのかもしれないけれど……。

高校の卒業制作として完成した『そうじきとおんなのこ』に続き、藝大院アニメに進学した飯田の一年次作品。さすがに昨日紹介した作品よりも内容がグッと大人びていて(大人の視点を獲得していて)、ストーリーテリングのギアチェンジがなされている。イラストレーションは相変わらず可愛らしいし、『そうじき〜』よりも更に洗練されている。けれどやっぱり一番書きたいのは、この着想のユニークさだ。「あぁ、わかる! わかる!」って膝をパンパン打ち鳴らしてリズムを刻みたくなるくらいの、「かつて一度見たことがある光景」であり、「かつて微睡みながら見たことがある色彩」だ。魚のキャラクターに置き換えているのもすごくいいし、終盤、光が一瞬ホンモノの通りに置き換わるのも抜群だ。事故のシーンが巧みにエグすぎないのもいい。とてもいい「コード」を持っている作家さんなんだな、と思う。

最後の、田舎に着いて(そこまで退屈だった時間を一瞬で忘れるかのように)笑顔で駆け出すふたりに、昔の自分の想いがありありと蘇った。こういう形で「感動」を提起させてくれる作品って本当に強いと思う。いいなァ……。音楽というか、音の付け方だけは、それほど飛躍がないかもしれない(うっかり音無しで最初鑑賞したのだが、まったく問題なく見ることが出来た。そこも強みの一つだと思う)。