ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『イディオリトミー』折笠良【99夜目】

昨日紹介した『Scripta volant』発表後まもなく、折笠は地元・茨城県のギャラリーで展示を行う。折笠はその期間中に、ある企画を行った。来場者へハガキに自由なイラストを描いてもらい、後ほどそれを集め、アニメーション化するというプロジェクトだった。

後日、完成した作品がインターネット上で公開された。タイトルは『イディオリトミー』。残念ながら現在は公開されていないけれど……本作には、昨日取り上げた折笠独自の「アニメーション」感が強く反映されている。来場者それぞれが、ほんとうに全く自由に描いたイラストレーションをなぞり、それが枚数を重ねることでゆらゆらと動いて「見え」、そして淡々と次のひとのイラストレーションへメタモルフォーゼしてゆく。基本的にはその繰り返しで構成されていた。

折笠がここで試みようとしていたのは、たぶんだけれど、「それぞれの人が描いた」イラストレーションを「なぞる」ことで、その人そのものをどうにかして「読み取ろう」とするような、そういう行為だったのではないか。何とか理解しようとする、あるいはひとつの愛おしい行動として、どうにか、どうにか。「それぞれの人々と(ある手段で)つながろうとする」、あるいは「それぞれの人々の独自性を掴みとろうとする」、その経過と試みと結果として、ひとつの結ばれたアニメーションが出来上がる。これを観る鑑賞者の心に浮かび上がるものといえば、もちろんーー他のどの作品とも違う、まさに折笠の作品からでしか得ることができない何か特別で、普遍的なものだ。たったひとりで、「アニメーション」というテクノロジーを通じて、手紙を読み解くという試み――。はるか昔を生きた考古学者と、同じように息をするような、僕にはそんな感じがした。こういうアニメーションも、あるのだ。

以下のURLで、本作の経緯が紹介されている。

orikasaryo.exblog.jp