ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『Let’s☆Cookin’ Jam』大橋史【64夜目】

大橋史は、ぼくの大学の1年先輩にあたる。多摩美術大学情報デザイン学科情報芸術コース(現・メディア芸術コース)の卒業生で、僕とは学科も、コースも、後に入るゼミまで一緒だった*1。大橋パイセンの作品は各学年の審査会でもよく見ているし、進級展で一緒に展示を組んだりもした。だから、僕にとっては、特に思い入れの強い作家のひとりだ。

当時も、そしてもしかすると今も、情報デザイン学科は「第一志望」で入って来る学生がそれほど多くない場所だと思う。大橋(パイセン。以下敬称略)がどのような経緯でこの学科に入ったのかは判らないが、つまり何が言いたいかというと、具体的に「ずばりこれ!」と、やりたいことが決まっていてこの学科に進学してくる学生は、実はそう多くないということ。学科の中でいろいろな作品やら方向性やらを見せられる中で、だんだんと“専攻”が決まって来る者が多いのだ。そして、その“専攻”が早く決まれば決まるほど、他の学生の中でも抜きんでることが多い場所でもあった。僕が3DCGアニメーションと「脚本重視」の方向性が決まったのは三年生の前期で、そこからは徹底的にそれに絞った制作を続けた。結果的に僕は、10年近くたった今でも、それを続けられている。

大橋は、二年次作品から、既にずば抜けていた。

大橋のVimeoアカウントの一番後ろに今もひっそり掲載されている『Let’s☆Cookin’ Jam』は、大橋がAfter Effectを導入しておそらく最初期のころに制作した作品で、二年次審査会でこれを鑑賞したときの衝撃を、僕は今でもよく覚えている。確かに日本全体で見ればそれほど「超すごい」というものではないのかもしれないが、その「方向性」の明確さでも、単なる自己表現にとどまらず「観る人を楽しませようとする」意識の高さでも、そしてきちんと音楽にまで神経をくばっている総合力でも、この学科の中では紛れもなくトップクラスにあたる内容だった。After Effectを使えることが決して「当たり前ではなかった」時代、「うわあ、アフターエフェクトの魔術師みたいな人がいるな!」と思ったことが、まるで昨日のように思い出される。

何よりも驚くべきことは、大橋のフィルモグラフィー最初期のこの段階から既に、彼の「音楽とアニメートのラグランジュポイント」を探す旅が始まっていたことだろう。大橋は単に素質に恵まれただけでなく、不思議な言い方をすれば……とても「ラッキー」だったのだ。これは、とても重要で、幸福なことだ……作り始めた途端から、運命の恋人に出会っていたのだから。

*1:ほかに大橋と同期の卒業生では、夢眠ねむでんぱ組.inc)、薩摩浩子、告畑綾などがいる。