ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『I’m here』中内友紀恵【63夜目】


フルスクリーンで見よう。イヤフォンをつけている方は、出来ればスピーカーに切り替えて。ここが映画館だと思って、観て欲しい。

『祝典とコラール』制作後、東京藝大院アニメーション専攻に入学した中内の修了作品。この後制作する色々な商業作品も含めて、多彩な作風を持つ中内だけれど、本作については明確に『祝典とコラール』の延長線上にある作品となっている。

冒頭から度肝を抜く演出。光のないスクリーンに漂い始める「それら」は次第に全てを埋め尽くし、そして作品は「はじまって」ゆく。その大胆不敵な尺の使い方にしびれると、正にめくるめく、心を置いてけぼりにするほどの音楽が次々と視覚に突進をかましてくる。すべてのアニメーションは駆け出している。とにかく走り、手を伸ばし、もがき、ここで暴れようとしている。叩いて、交差して、奏でようと試みている。さあ行こう。行こう。行こう! 叫びのようなことばと想いが、焦燥感を通り越し、まるで水みたいに自由に踊り、そして音楽を奏でる。まるでほんとうの大昔から伝わるような、奇跡の音楽劇のように。上水樽力による超スケールのスコアも素晴らしい。抜群の作品だと思う。

タイトルの『I’m here』だけ、ちょっと雄弁すぎるんじゃないかな、と感じていた。そんなこと言葉にしなくたって、心にきちんと届いてくる出来だと思うんですよね。クライマックスは草の間から見上げた星空。『スバラシイセカイ』と地続きになった、北海道の空なのかな、と、自己解釈している。