ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『FOR』大橋史【65夜目】

大橋史の学生時代の作品まで全部取り上げ始めると、ちょっときりがなくなる(できちゃうけど……)。最初期作『Let’s☆Cookin’ Jam』は完全に具象的なイラストチックのアニメだったが、大橋はすぐに『ascension from the HELL』という作品で、その方向性を切り替えにかかる。一方『112 Sabsections Of Skyline』では、楽譜をアニメーション内で再現し、彼のややアカデミックな一面を早くも指し示すことになる。

一年が経過する。それらの模索を経て大橋は、『FOR』という作品で、一旦それをまとめ上げにかかった。

弦楽器と打楽器の音楽的要素を爽やかなグラフィックで再現し、拾いながら、それを何度も何度もループさせて、ひとつの風景が描かれてゆく。旋律がリフレインする中で、作品はさらに景色を、より強く映し出す。

昼と夜が切り替わるとき、星々が軌道を描く瞬間のブレイクは今観ても素晴らしい。音楽がひとつひとつ積み重ね、奏で、盛り上げていく中で、鑑賞者はアニメーションでも、音楽でもない、何か「三つめ」の要素を次第に感じてゆくことになる。風景が出来上がる頃には、わたしたちの心の中にも、また別の景色が描き終えられているのだ。ビートと音楽の興奮がしっかりと込められている。やっぱり、とてもよく出来ている作品だと思う。

こういう、「作品制作の中で掲げたハードル」をストイックに研究しつつ乗り越えようとする感じが、大橋パイセンらしさなんですよね。ドクター! って呼びたくなる。医者じゃないよ、教授! って意味でね。