『祝典とコラール』中内友紀恵【61夜目】
“音楽を聴くと頭の中に流れ込んでくる、そのイメージを可視化する”。実際に音楽を聴いている場合、いきなり具体的なストーリーが頭で出来上がるような人はまれで、多くはきっと抽象的な、色と形が(あるいは風景とかが)交錯するようなものになると思う。古くはノーマン・マクラレンが*1、近年だと水江未来とか大橋史とかがトライしている「音楽との格闘」に、鮮やかに参戦したのが中内友紀恵だ。『祝典とコラール』は、その中内の出世作である*2。
まず選曲が素晴らしい。そして妖しく、わくわくする、なおかつキュートなグラフィックが洪水のように押し寄せる様が圧巻だ。ここでユニークなのは、線画のキャラクターと、輪郭線が描かれないグラフィックが画面上で混在していることだろう。それぞれが、「音楽がつくるイメージ」と「音楽の中に飛び込んだ『わたし』」を見事に切り分けている。影の描き方も、それがどんどん巧みに(時に残像を遺して)メタモルフォーゼしてゆくことも素晴らしい。ある意味、それほど統一感がある変化をしていくわけではないのだが、そのごった煮っぷりも、色がパレードしていくような色彩の選び方も、タイトルにもあるような「祝典」を見事に演出しているのだ。
中内は本作がコンテストで注目されるや否や、様々なオファーが殺到。それを引き受ける形で、進学後も商業作品を(主にグラフィック面を支えるスタッフとして)次々と手がけるようになる。