ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『スバラシイセカイ』中内友紀恵【62夜目】

めちゃめちゃ大好きな作品。

『祝典とコラール』の中内が、ミュージシャンのAoに提供したミュージック・ビデオ。静謐なアコースティック・ギターが奏でられると、電気のついていない室内がスクリーンに浮かび上がる。壁にかかる星空の写真たち。そこを横切る、しっとりとした瞳の青年。彼は、真っ赤な灯りの現像室へと入っていく。薄緑色に光る現像液にひたすと、ネガの中のモノトーンの女性は……。

作者の中内は、北海道出身だという。ごく静かな、積もった雪をはむように歩いて進む朝や、夜を、おそらく肌で感じてきた人なのだろう。そうでないと、ここまでの「雪」の景色は描き出せないのではとすら感じる。空気が凍って風に舞い上がり、きらきらと輝く姿に、その一種の神秘に、本作は多くのインスピレーションを受けているのではないだろうか。

記憶。雪。病室。現像液の光。涙。厚いコート。精霊。そして朝日。あらゆるモチーフが地層のように積み重なって、切実な、とてもとても切実な物語を、そして大地の現象をアニメーションに見事に映し出している。何度見返しても、その度に違うカットで胸打たれるのだ。すさまじい傑作MVだと思う。

この前の、そしてこの後の中内のフィルモグラフィー的にいえば、本作はやや異色作なんだけれど……そしてそのどの作品も確かに素晴らしいんだけれど……僕の中で中内作品といえば、これなのだ。それくらい印象的で、大好きな作品。同じくAoのMVである『テレプシコーラ』のリリックビデオも中内による作品で、モチーフがいくつか共有されているんだけれど、こちらはボカロPVっぽくてまたちょっと、違う感じですね。


ああ、冬の美瑛のダイアモンドダスト、一度生で見てみたいな。