ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『文學少女』大橋史【71夜目】

 


大橋のごく最近の作品も挙げておこう。リリックビデオの隆盛もあり、ここ数年は「文字」アニメートの仕事が目立つ大橋の、その代表作とも言える一本だ。

声とエレキ・ギターだけの静かなイントロに、ふわりと言葉が浮かび上がる冒頭。そして物語は急加速し、ある少女の心象風景が駆けだしてゆく。ぐりぐりとドリルを回すように、心の中にねじ込まれてくる文字たち。よく立ったヴォーカルの「言葉」を焼き込むかのごとく、タイポがスクリーンの上を叩きまくり、少女の景色がそれを抒情的に定着させてゆく。まるでスミをローラーで塗り付けて転がすがごとく、言葉とグラフィックを心に残そうとするパワフルさが、小手先のテクニックを越えて(もちろん、それが作品を支えているんだけれど!)うたのテーマを激しく、そして情熱的に、見る者の心に届けようとしてくるのだ。

実は本作は、世界で100人くらいしか興奮できない超ニッチな豪華メンバー(笑)を作画に招聘している。少女の1番の作画は中内友紀恵、2番はkoya(アーティスト集団「賢者」)、ラストは何と植草航だ。作監が立っていないので絵柄自体はバラバラになっているんだけれど、特にkoyaのパートがいい。<言葉を剣に 沈黙を盾に 君は 君だけの主人公になる>という歌詞が、大迫力で目の前に立ち上がる。

ここまで本ブログで、大橋の昔の作品からずっと観て来て下さっている読者ならば、彼のこれまでの得意技が各所に配置されていることにも気づくだろう。素晴らしく遠くまで歩いてきた彼の、その一本の線が、ちゃんと最新の作品にまで反映されている姿は素晴らしい。ちょっと感動的かもしれない……。音楽とアニメーションのラグランジュポイントを探し続ける大橋の、タイポグラフィにおける最上位魔法だ。

あとこれは単純に……曲が超大好きだ! そのアドバンテージも確かに否定できない……。そうさ、人生はストーリー。そして自意識過剰な私小説

大橋はMVやコンサート映像、VJなどで現在もその手腕を発揮し続けている。2015年にはゆずのバック映像を手掛け、NHK紅白歌合戦の映像にも参加した。様々なアーティストとのコラボレーション・ワークにも積極的だ。昨年には久々の「オリジナル」といえる映像作品、『nakaniwa』をドロップしている。