ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『カナメヲ』らっパル【39夜目】

いわゆる「WEB系アニメーター」であり、特にエフェクトアニメで世に知られるようになった早熟の天才・らっパルが、2015年に突如発表した短編作品。その内容は、彼のこれまでのフィルモグラフィと連続性がありながらも、想像を絶するほどの圧倒的な飛躍を遂げた、戦慄を覚える出来に仕上がっていた。

この中には、多くの示唆がある。物語のヒントはあちこちに散りばめられている。けれど圧倒的な筆力で描き出され、視聴者の網膜に焼き付けるのは……この子って何なんだろう?どういう存在なんだろう?一体ここで何が起きているんだろう……そういう疑問も当然頭をよぎるのに、見届けてゆくうちに自然とそれも消えていって、最後には、ただのシーンの羅列にまで解体されてゆく。ワンシーン、ワンシーンごとそのすべてに、あまりにも切実でまぶしい、生きていこうとするものたちの生活の風景がある。不思議な出会いも、滅入るほどに薄暗い部屋の中も、すべてが残酷なほどに並列した、爆発しそうなくらい平凡な「日常」だ。音楽のノイズはフィルムが進むにつれ激しく、ますます掻き毟られるように奏でられてゆく。次々に「刹那」が紡がれてゆく……落雷、雨、神木、煙、水、雪、そして快感。夜空に星がいまも光り続け、遠くで火薬が炸裂し、仕事を終えて家の扉を開けるたびに、そこにあなたがいることすらも……全てが確かなものではない。いつだってそうなのだ。わたしたちは消えてしまう運命に勘づきながら、食べて、寝て、起きて、排泄して、仕事に行って、たばこを吸って、薬を飲んで、バッティングセンターに行って、愛し合って、そして死んでゆく。このたった5分間には、家で思わず叫び声を上げてしまいそうになる、まだ言葉になおらない、息が苦しくなるほどの焦燥感と、目を細めるほどのまぶしさがあるのだ。あまりにも特別で、衝撃的で、そして衝動的な、傑作だ。

ワンシーンごとの見栄えの見事さは勿論だけれど、残酷なほどに生々しく、そして切実な詩情が全編に散りばめられていることが抜群に素晴らしい。作者は、自分のこういう感性を、もっと信じていいんじゃないかな、と思う。同時期にリリースされた『東京コスモ』や『纏の国のガルダ』とあわせて、『フミコの告白』以来凍り付いていた若い感性のオリジナル・アニメーションが、とうとう再び鼓動を打った金字塔だろう。多くの若者にとっての、ヴァイブルになるべき作品。

ついでにいうと、「天気予報」が出てくるアニメは、基本的に、名作です。