ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『駅長さん』irodori【8夜目】

irodori作品の面白い共通点は、実はどの物語にも「神さま」の要素があることだ。『眼鏡』の狂気じみたメガネ信仰、『ケムリクサ』で示唆される世界を動かす(主人公たちを消そうとしている)存在、『らすとおんみょう』のそのものズバリな陰陽師バトル、そして『たれまゆ』のやわらかな神格の表現。そう見て行くと、『駅長さん』ってすごくirodoriのドンピシャ部分を描いている作品だ。ある意味、過去のどの作品よりも抽象的な内容で、これまで非常に丁寧に設計されていた「観る人」への具体的な物語の提示が、やわらかくも、しかし明確に拒絶されている。遠い高い雲の上で、何かのための線路を引き、何かに敬礼を受けながら、夕闇の中に姿を消してゆく駅長さん……。彼女(彼?)はまるで、過去のirodori作品でもどこかで意識されていたような、そんな「ヤオヨロズ」の神さまみたいだ。この短い物語で届けようとしている手触りは、たぶん、その日その日を生きる中でわたしたちを円滑に動かそうとしてくれているような「なにか」、そんな存在なんじゃないかな。

irodoriが目標として立てていたグラフィック表現も、ここに一種達成されているように感じる。毎月更新バージョンからかなり手が加えられているのもちょっと珍しい。コストの高い『らすとおんみょう』を中断させる形で完結まで持っていった『駅長さん』は、irodori毎月更新で発表された最後の作品となった。