ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『ロボと少女(仮)』アオキタクト【73夜目】

やっぱりこういう、クレイジーな作家なのだ。アオキタクトは。

処女作『ハルヲ』を発表後、その勢いのままに商業資本での長編作品『アジール・セッション』を上梓したアオキタクト。そこからほとんど間を空けず制作された本作では、いきなりそのアプローチを激変させた。

当時「来てるぞ、来てるぞ」と言われ始めていたニコニコ動画という媒体に、ぴったり合わせるように制作された短時間・ツッコミどころ満載のギャグ・美少女×キュートなロボット・シリーズもの……という、売れ線要素押さえまくりのめちゃめちゃポップな作品。それでも隠しきれていないのがこの「暑苦しい」ほどの熱量で、100秒間にパンパンに詰め込まれたハチャメチャな展開、どんどんタガが外れていくスケール、そこまでやるか“と言わざるを得ない”話の盛り上がりっぷり。もうちょっとフツーのギャグ回を入れれば長く続けられたのでは、というこちらのダサい思いこみを粉砕するがごとく、正に衝撃のカタルシスが用意されていて、最後には(なぜか)手に汗握る王道のアツい展開にまで物語が一気に駆け上がってゆく。これがやりたい、絶対にかっこいい、どうだ見ていろ! とグッと拳を固める作家の表情すらも観てとれるようだった。リアルタイムでの連載時、誰もが前のめりになってこの最終回に夢中にさせられたものだ。『ハルヲ』の時の情熱は再びここに炸裂していた。その様が、本当にかっこ良かった。

抜群に面白い作品だし、気軽に楽しく見ることが出来るので(カップめんを待つ間に2話分も観れちゃうぞ)、広く人に勧められる作品。アオキは本作のDVDを即売会などに持ち込み、当時としては記録的な枚数の販売を達成した。彼はその足跡を各所に残しつつも、現在は映像制作会社で一ディレクターとして活動している。なので本作が、現時点では最後の彼のオリジナル作品だ。実はアオキタクトって『ハルヲ』と『ロボと少女(仮)』しかインディーズでは発表していない、かなり寡作なほうにあたるクリエイターなのだが、もうお分かりの通り、その1本1本で怖ろしいほどの爪痕を残している作家なのである。もしも今だったら、何がしたいと考えるのかな。