ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『CHANNELER』大橋史【68夜目】

大橋がスゴいのが、これほどクライアント・ワークを手広く手掛けつつも、自身の「オリジナル・ワークです」と言える内容の作品も定期的に欠かさず送り出していることだ。そして毎度、その度に新しい挑戦を作品内に盛り込んでいる。そこがホントーに“ドクター”足り得るところだろう。例えば『Your Thorn』で、自身のアニメーションに一種の到達点を見せたと思ったら、それから僅か1年で、これほど違うアプローチの作品を発表したりするように。

前作が「有機的」「音楽がもつ“波動”のようなもの」の視覚化に全力を注がれたのだとしたら、本作は「記号的」で、「音楽ではなく“リリック”」の視覚化にチャレンジされている。ちょうど□□□が『CD』というアルバムをリリースして、「タイポグラフィ」の面白さに注目が集まっていたときだった。タイトルの『CHANNELER』は、チャネリングと「2ちゃんねらー」をひっかけたもの。動画サイトでも十分楽しめるけれど、前作『Your Thorn』で身に着けていた「ビッグスクリーンで解き放たれる」感覚がしっかり本作にも持ち込まれていて、巨大スクリーンで鑑賞すると特に映える。というか、迫力が伝わる。アスキーアートで描かれるキャラクターたちは不気味なほどにあいまいな形状で、確かな形は何も定着しないまま、たった1本の記号がさながら生きもののようにスクリーンの上を這いまわる。あれ、あれ、掴まってもいい手すりはどこなの? 時間を支配し、スクリーンを蹂躙する、その一種の「煽り方」が、鑑賞者をたっぷりとゾクゾクさせてくれるのだ。

ただ、これ、リリックが、それほどは面白くないんですよね……。