『旅するぬいぐるみ』田澤潮【59夜目】
2013年の夏くらいだったか、初めてコミックス・ウェーブ・フィルムのオフィスに招かれたときに、社長の川口さんがニコニコしながら、「ちょっと観てみてよ」と、この『旅するぬいぐるみ』のDVDをかけて下さった。全天プラネタリウム用の映像として制作された10分間のアニメーションで、うわ~めっちゃいい~~!!と興奮した様子をそのまま伝えたら、いいだろ、俺もよく把握してないうちにめちゃくちゃいいものになっちまったんだ、とお話して下さった。あの感じがとても印象に残って離れない。そうして出会った作品だ。
だから、本当は、あらすじや予告編すらも観ないままで、この作品に触れて欲しい*1。余計な情報を仕入れずに、本編からいきなり再生してほしい。一応DVDが発売中だけれど、大手の定額動画配信サイトでも見られると思う。
とにかく内容がいいのだ。圧倒的な作画クオリティ、美しい背景美術、可愛らしいキャラクター・デザインに、エモーションを煽る音楽。編集は心地よく、そのあたたかな眼差しは画面から溢れてくるようだ。そして、ストーリー。どうかお願いなので! あらすじとか予告編を先に観ないで欲しい。前知識なしで観始める、その鑑賞者の認識のずれが、巧みにラストのカタルシスに結び付いているのだ。ひとつだけヒントを言えば、その「スケールの大きさ」に、だ。とにかく一見の価値がある作品。
羽田空港国際線ターミナルにある「プラネタリウム スターリーカフェ」では、2012年の初号から現在に至るまでずーっと上映され続けているようで、現在時点から計算しても実に5年にわたるロングランになっている。こんなの、何も知らないでカフェでぼーっと見てたりしたら、出来の良さにびっくりしちゃうよな。『旅街レイトショー』が何とな~く空港モチーフになったのは、これに引っ張られたからだと今でも思う。どうだったんだっけ……向こうが羽田だから、こっちは成田にしよう、くらいまで言ったような……。
監督の田澤潮は、昨日紹介した作品のほかに、話題になった大成建設のTVCM『新ドーハ国際空港編』も手掛けている*2。2010年には長編オリジナル作品『一輪者』の制作を発表したが、こちらは続報が途絶えてしまった。