ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『日本橋高架下R計画』細金卓矢【41夜目】

GIFアニメーションのカルチャーが「WEB系アニメーター」を生み、2ちゃんねるFLASH・動画板が「PV系」……のちの「MG系」と呼ばれるモーショングラフィックスのカルチャーを育て、After Effectがアマチュアクリエイターにも浸透し、ニコニコ動画Vocaloidを発掘して、Tumblrがまったく新しいウェブジャンキーたちを生み出して……。2000年以降、ウェブのカルチャーに起きた変化の、その全てが濁流のように流れ込み、突如として生まれた歴史的傑作ミュージック・ビデオが、これだ。音への天才的な感性、そして抜群のポップさで一目置かれていた細金卓矢がそのセンスをまざまざと見せつけ、優れた「動かしまくり」のWEB系アニメーターは惜しげもなく腕をふるい、ボカロをカルト的人気にまで押し上げたじん(『カゲロウプロジェクト』を生んだ人物)が、最先端のVocaloidだったIAを使い楽曲提供をしている。

3秒〜5秒で次々に展開する「驚きに満ちた」カットの数々。そのどれもが、ワンカット切り抜いてもbuzzに耐えうる強度を持ち合わせている。全体的に、音楽ともよく合った、決して声高ではない景色の描かれ方……平熱感、涼しさがあって、正に2010年代の若者の「カッコ良さ」をここで定義しているとすら思う。女の子の可愛らしさ、時々みせるフェチっぽさは極めて日常的な風景の中で消化され、「今」っぽいアイドルのセンスを嫌味なく昇華させている。色彩設計も素晴らしい。何より作品がとてもリズミカルで魅力的だ。何度でも何度でも観たくなってしまうのだ。この1分19秒に込められた情報量、センス、そしてウェブカルチャー全てを飲み込んだ上で蒸留させたような新・「定義」に、くらくらするほど酔わせてもらえたものだ。

絵コンテは見富拓哉。本職は漫画家・イラストレーターで、細金と共に、本格的なアニメーション挑戦は初めてだった。25歳の若者が知恵を絞ったこのミュージック・ビデオは、紛れも無く我が国のサブカルチャーの転換点だった。これらのアニメのカットは裁断され、当初からTumblrでもカットごとにリブログ出来るように仕掛けられていた。発表は、2012年春。今見ても、この作品が及ぼした影響力のあまりの大きさに、そして先見の明に、驚かされてしまう。絶対に見ておくべき作品。