ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『月は無慈悲な寄席の女王』機能美p【34夜目】

さぁ、とんでもない一本を紹介しよう。

この作品を最初に教えてくれたのは、ひらの君だ。「これ見たことある?絶対好きだと思う」と、LINEか何かで送ってくれた記憶がある。後で調べたら、その年初めて僕がFRENZ2012という上映イベントに出展したとき*1、別のプログラムですれ違っていた作品だと解った。

始まりから、見たこともないような映像。巧みに引き込まれる冒頭。<キネティック・タイポグラフィ>と銘打たれた、ぶっとい明朝体の文字がセリフ代わりに画面を埋め尽くし、創作落語家の「とある噺」が展開してゆく。文字を読ませるテンポは巧みで心地よい。映像だけでなく、楽曲もまた機能美pによる手作りだ。全編を彩るスピーディーなテクノサウンドも世界観構築に一役かっている。寄席の拍手からハンドクラップに移行する所なんてたまらない。

見事なのが、「噺」としていちいち上手でめちゃくちゃ面白いというだけでなく、非常に映画的な感動もある作品だということだ。画面を分割する派手なアニメート、記号的であることを存分に生かしたアイデアの数々、実は非常にハリウッド的な脚本構造になっているストーリー、ちょうど作品の半分でリフトオフするロケット……。回想に入るところも、そこから抜けるところも非常に自然で、センスを感じさせる。隅々にまでクスリとなるようなネタが仕込まれていることも素晴らしい。新鮮な驚きと興奮に満ちた、圧倒的といえる名作だと思う。

機能美pは、このような、他のどの作品にも似ていない、オリジナリティに富んだフォーマットを駆使し作品をリリースしている。スタイル上、15分から20分を越える長い作品が多いのも特徴だ。なのでだ。特集上映とかが出来るのだ! 北海道出身ということなので、ぜひ北海道で機能美p(さん)の特集上映とかして欲しい……。このあと紹介する作品もそうなのだが、非常にスクリーン映えする、お客さん映えする作品のオンパレードなので……。

とはいえ、機能美pをまず1本楽しむとしたら、間違いなくこれです。

……け!

*1:そのとき出展したのが『荒波 -LOVE LETTER-』