ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『コタツネコ』青木純【30夜目】

出ました! 青木純の代表作。どてらを着た猫が六畳の和室でコタツに座っている。という謎の絵力もさることながら、可愛らしいタイトルとのギャップが激しい冒頭のインパクトたるや、すさまじい。青木純のどの作品もそうなのだが、音の演出がこの作品でも実に見事だ。大音量のヘヴィメタ、デスボイス、からの大袈裟すぎるドカーン!バシーン!的なSE。「何!?何が起きたというの!?」と観客の頭は最初っから混乱しっぱなしだ。次に気持ちが追いつくころには、もうミカンも急須もありえないくらい宙に舞っていて、リモコンはコタツネコの手にすっぽりと収まっている。ボタンを押すときの小さすぎる動きもギャップを生んでいていい。スタッフクレジットの早すぎる出かたもたまらない。「そ、それだけかよ!」。

丁寧に作られたセットは所帯じみた空気感があって、日本人なら馴染み深い風景だろう。抑えられた色味もいい*1し、ガラス戸の奥に見える小道具も芸が細かい。そして何より、このキャッチーすぎるストーリーがたまらないのだ。この「あるある!」は老若男女問わず通用するし、決してアイデアだけに留まらせず、エンタメに富んだ演出に向けて知恵が絞られているのも素晴らしい。難しいことを考えずに、これでいいんだよ、と思える。青木純という作家性をたった1本で映し出したような秀作だ。

*1:特に、ふすまの濃い青のラインが好き。