ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『quino』ポエ山【134夜目】


いま調べものをしていたら初めて知って驚いたけれど、『quino』のエピソード1が発表されたのは『ゴノレゴ』よりも前のことだったという。すぐ後だったのかなというイメージだったが……。知らない方がいらっしゃるかもしれないから、念のため書いておく。あの『ゴノレゴ』の作者が、「吉野家」を発表したのと同じ年にリリースした――20分間に及ぶ本格長編アニメーションが『quino』だ。

汚染された惑星に不時着したロボット技術者と、彼によって盗み出されたロボット「quino」。ふたりの荒野での逃避行とサバイバルを描いた作品。バンド・デシネを彷彿とさせる壮大な世界観、卓越した美術とグラフィック描写、そして漫画的であり・映画的であり・同時に非常にアニメーション然とした巧みな演出の数々がここには炸裂している。その後の作品と比較すればまだ技術的に拙い部分もあるのかもしれないが、episode Iからepisode IIにかけて技術面でも演出面でも大幅なクオリティアップを遂げているのは、初期の作品ならではの醍醐味といえるダイナミックな進歩だろう。無邪気で純粋なquinoは動きもデザインもセリフも可愛らしく、そのシビアな設定や展開と見事なコントラストになっている。ストーリーとしてサスペンスがちゃんとあるだけじゃなくて、一種人間の力には及ばない、より大きな存在に触れようと手を伸ばす作劇は非常にアーティスティックで、まるで祈りのような詩情も込められている作品だ。

ここに『ゴノレゴ』のイメージは微塵もないけれど、「ポエ山オレンジ」とも呼ぶべき独特の色味だけは健在かもしれない。重ねてだが、発表は同じく2001年。FLASH関連の流れはいつかまとめて記事にするので多くは省くものの、当時でもぶっちぎりと言っていいトータル的な作品の完成度は多くのFLASHアニメファンをしびれさせた。当時の一ヶ月がまるで一年に感じられたように、日進月歩でどんどん「とんでもない」進歩を遂げていった、あのFLASHアニメーション界隈の熱気にまで想像を巡らせてもらえたら、本当に嬉しい。

非常に印象的な音楽は、何とポエ山自身が手掛けているもの。使用された楽曲をまとめたサウンドトラックもリリースされている。余談だが、数年前一人暮らししてたときに、近所にあったブックオフで『quino』のサントラを偶然見つけて、すごい悩んだ末に申し訳なくて買わなかったな…………なんかすみません…………。