『ヤマを横切る白雲のように人には分からないように私に笑いかけて』84yen【56夜目】
傑作『CROWN』をはじめ、日常にひそむフワフワした恐怖、そして狂気じみた執念をフィルムに焼き込むアニメーション作家84yenの最新作。MAKKENZとarai tasukuのミュージック・ビデオとして制作されたアニメーションだ。
やわらかなモーフィング、意味ありげなモチーフ、不安と安心が共有するダウナーなセンス(こういうのは希少だと思う)、そして怒涛のように押し寄せるラッシュシーンは本当に圧巻だ。手描き、カラリング、そしてコラージュ……84yenの得意技が、惜しげもなく投入された秀作だと思う。
この作品はリリックが強いので、より描こうとしているものが鮮明に響いてくる。まるで裏表のような光と闇。部屋の壁紙を引き剥がせば牙を表す深淵。生きる、というだけでじたばたともがいてしまう、そんな「見えない何か」に挑もうとしているような作品だ。
これ新千歳とかに出せばいいのに……。