『「フカシギの数え方」 おねえさんといっしょ! みんなで数えてみよう!』土居誠史【139夜目】
異色作を紹介したい。
2012年に日本科学未来館の常設展示「メディアラボ」内で行われた、企画展示「フカシギの数え方」のために制作されたショートアニメーション。「不可思議」とは、億とか京とかと同じ数字の単位の名前で、膨大な数字と人類はどう向き合うのか、について解説したミニ展示であったらしい。
ところが本作は、日本国内のみならず世界中からも反響が殺到。現在でもYouTubeで200万再生に迫る膨大なリアクションが寄せられている。一回きりの科学館用解説動画としては、異例すぎるバズを経験した作品と言えるだろう。
ポップな音楽にシンプルなイラスト。親しみやすい色彩に、はつらつとした声優の演技。知育で用いられるようなコッテコテの内容で、「同じところを2度通らない道順の数」を丁寧に数え上げていく。思い出されるのは『ドラえもん』の「バイバイン」だ。数字のケタがどんどん上がっていって、その驚きに私たちも楽しみつつ、ところが物語は途中から妙な方向へと進んでいって……。
とにかく、アイデア勝ちとしか言いようのない見事な脚本だ。決して「組み合わせ爆発」の驚きを伝えたい、という製作者側の意図から視聴者の意識が外れることなく、しかし想像以上の衝撃をもってアニメーションは驚きの結末を迎える。イラスト調も、声優の演技も、すべてが一種の伏線だと気づかされた瞬間の快感ときたら、たまらない。シンプルで、しかし考え抜かれたアイデアに、見事なアウトプットがついてきた「お手本」とすら言えるアニメーションだろう。笑えるのになぜか感動的で、涙すらにじむのにどうしてかバカバカしくて、そして同時に恐怖ですらある……。数学や、科学という学問そのものへの畏怖やロマンティックが、ここまで完結に表現された作品が、他にあっただろうか?
何度か同じことを書いてしまうけれど……テーマをみつけ、そこからブレずに――しかし最大限の衝撃を視聴者にもたらす作劇やアウトプットは、ほんとにほんとに「お手本」だな、としか言いようがないくらい。実によく出来ている作品だ。クレジットによれば、監督・脚本は有限会社デンバク ファノ デザイン所属の土居誠史。アニメーションを手掛けたのは紅白歌合戦のバック映像なども手掛けているジェレミー・サンソン(Jeremy Sanson)だという。