ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『最終ロケット・イェイ&イェイ』内沼菜摘【123夜目】


おととし(2016年度)の日本大学芸術学部映画学科卒業制作*1として発表されたのち、一部の「ファン」によって再度発掘された怪作アニメーション。

実は地球の外で生まれた少女・メルバと、地球から彼女を連れ出した謎の青年・M2が、天文学的な距離をゆく宇宙船の中で繰り広げる会話劇。短めのスケッチを積み重ねた全10話構成の作品になっていて……だなんて、こうしたまともな解説を書く輩がネット上に今のところ存在していないくらい、そこに意識が向かないツッコミどころ満載の展開、セリフ、グラフィック、内容、そしてストーリーだ。デッサンが怪しいキャラクター、意味不明なフレーズが連発される次回予告、シュールすぎる小ネタ、ネジが飛んでるダイアローグ……。これをこのまま発表してしまう(一種の)天然なとことか、同時に読み取れる――作家としてのプライド的なもののパワフルさとか。質感も作風も違うけれど、それこそ井上涼やぬQが最初に登場した時のような、あの「芯の強い感じ」を彷彿とさせる方は少なくないだろう。そういう意味では、もう少し以前のニコニコ動画とか、リニューアルしてすぐくらいの学生CGコンテストなら速攻で面白がってもらえた作品なのかもしれない。これほどのインパクトがある作品なのだが、そこまで話題になっていないのが、ちょっともったいない。

どこまで作家の意志で「うまくいっているのか」はわからないけれど、繰り返し見ていると根底で描かれているテーマも見えてくる。「わたしの居場所はここではない」という想いが生み出す、地球の外まで私を連れ出してくれる王子様の存在について。井上涼やぬQと根本的に異なる点もそこで、ある意味での「ポップ味」がテーマにあるのではなく、作家本人の精神世界へと潜ってゆくような、そんな内省的な宇宙を漂う感じ。そこを味わえるのも、とてもいい個性だと思えた。実は王道のファンタジー・少女マンガな趣きがある作品。本当は大部分が独り言で構成されている、メルバの、ひとりぼっちの宇宙飛行。

ミーム感染も狙えそうな、言葉に出したくなる名セリフが多くて楽しい。ネット上では封印されている第5話、手作りして上映会場でばらまいたらしいDVDには入っているらしいです。

*1:つまり、片渕須直の門下生にあたる。