ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『ことの次第』折笠良【101夜目】

 
「で、折笠良がすごいのは判ったけど、これってどうお金にコミットするの?」という疑問をもつ方は、少なからずいらっしゃるかもしれない。彼のストイックで孤高なスタイルは、商業の世界と一瞬縁遠いようにも思われる。そんな疑問を、折笠は今年、見事に粉砕した。今夜紹介するのは、ミュージシャン・環ROYのミュージック・ビデオ。

折笠のこれまでの「研究テーマ」を見事にシンクロさせながら、誰も見たことがないような衝撃の映像に仕上がっている。こういう、歌詞をどんどん活字にして見せていくミュージック・ビデオを「リリック・ビデオ」と言うのだが、折笠に作らせれば、まずスタート地点の着想からここまで異なるものになる。そして同時に、具体的に日本語が浮かび上がる瞬間はそれほどないにもかかわらず、ミュージシャンのラップと言葉は、このアニメーションによってこそ、ぐっと前に出て聞こえてくる。

折笠も勿論すごいんだけれど、この曲とこの歌詞が出来上がった時点で「これは折笠良だ!」って最初に言いだした人もホントに同じくらいすごいと思う。クリエイター・作家同士の、パーフェクトすぎるシンクロだ。言葉も、意味も、音節も、活字も切り離されて、まだ名前のつく前の「何か」にまで解体されて、わたしたちの前を漂って。

<言葉は記号の次の記号/比喩が結びついて意味になるもの/不完全で関係性がいつでも必要  世界そのもの><鳴き声は整理され声に変わる/声は言葉となって意味を纏う/意味は時と場を僕らに与え/時と場は物語を紡いでる>