ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『ENGAWA DE DANCEHALL』坂本渉太【74夜目】

映像の世界は、(大小問わず)あらゆる技術革新と切っても切り離せない関係にある。一枚一枚手で描かなければ動かせなかった2Dアニメーションにも、様々な新しいツール、そしてテクノロジーが発明され、その参入の敷居を下げ続けてきた。

「パペットツール」は、Adobe社が開発したソフトウェア「After Effect」に搭載された新機能のひとつだった。1枚のキャラクターの静止画に人形劇(「パペット」)のように架空の「指」をしこみ、その指を操作するだけで動きをつけることが出来るというもの。これでアニメーターは、キャラクターの絵を1枚描くだけで、簡単にアニメーションを作ることが可能となったのだ。

……マァ勿論、これがそんなにおいしいツールなわけがなかった。実際にこの機能を使うと、なんだかキャラクターの間接がグニャグニャに見えてしまったのだ。そう……グニャグニャに。本来はソフトの機能がバリバリ透けてみえるアニメーションって好まれないものなのだが、それを全力で無視してやりきった結果、誰も観たことがない作品になってしまったのが、これだ。

ヒョロッと長い腕と足、何ともほがらかで気の抜けるイラストレーション。デジタルアニメならではの横にスウッと動く画面作りも相まって、じっと見ているのに全てが横滑りしていくような独特の質感がある。このアニメがもう一つ優れているのが、原曲の4つ打ちのリズムにキャラクターの動きがめちゃくちゃ忠実なことだ。「何だこれは!?」と鑑賞者が呆気にとられているうちに、自分の右足もまたリズムを刻み始め、なぜか気分がアガっていく。頭も動き始めたらもうおしまいだ。作品はどんどん舞台を変え続け、最後には前代未聞の祝祭へわたしたちを連れ込んでゆく。ラストに訪れる謎のカタルシスの爆発っぷりたるや!! なんかわからないけど嬉しい!!楽しい!!涙が止まらない……!!!

ハレの日とケの日を積み重ねながら、どんなにしんどい農作業だって、わたしたち日本人は歌いながら乗り切ってきた。こんなに気の抜けたグラフィックが、ここまでピースフルなジャポニズムDNAを呼び覚ますのだ。きつねさんもおいで!タヌキさんだっておいで!今日はお祭りだよ!!パペットツールならではのグニャグニャとした動きこそが、ここまでの脱力感を生み出していると思うのだ。

こういう4つ打ちダンスミュージックって、今がいちばん流行しているので、もしかすると登場するのが早すぎたMVなのかもしれない。今だったらスタンプとかがバカ売れしてそう……(めちゃくちゃキャッチーですよね)。作者の坂本渉太はジャンルを横断するアーティストとして活動していて、本作は彼のほぼ最初期にあたるアニメーション作品だ。