ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『総天然色少年冒険活劇漫画映画 ハルヲ』アオキタクト【72夜目】

総天然色少年冒険活劇漫画映画 ハルヲ [レンタル落ち]

たまにこういう、クレイジーな作家が現れてしまうのである。

前職はロックバンドのヴォーカル。いきなり前知識も何もなく3DCGソフトを買って、とりあえずひとりで全部作ってみた処女作が30分28秒のガチ長編*1アニメーション。どうしてそうなるんだ!? 貧困街に住み、ヤクザと渡り歩く少年・ハルヲのヴァイオレンスでイノセントな物語は、多彩な登場人物、交錯する想い、そして(何といっても)全編からあふれる熱量の凄まじさで圧倒されてしまう。音楽も全部自作自演、エンディングでは自分で歌っちゃってまでいるのだ。何ということだ!

既存作品からのイメージはちょっぴり感じなくもないものの、迷いのないセリフの書き方、惜しげもなくモデリングされた(ちょっとでも作品制作に慣れていたら、ここまでセットも登場人物も作ろうとはしないだろう……大変すぎて)モデルの数々、「ここを見せるぞ」という鼻息荒いロマンティックな演出の連発、そして「這い上がってやる!」という叫びが聞こえてくるような“伝えたいこと”の芯の強さ。そのすべてからビリビリと伝わる、ハルヲのあの赤い瞳で、まっすぐ見つめられるような真剣さ……。その魅力たるや、「これこそが自主制作アニメーションなんだ!!」と道行く人の肩を片っ端から掴んで語りたくなるほどだ。これをやるしかないんだ、これをやらなきゃ俺はきっと死ぬんだ、とでも言わんばかりの作者の「完成」への献身。実際の「プロっぽい」クオリティにまでそれが追い付いていなくても、これほどまでに情熱的ならば、マニアじゃなくたって届くんだ。燃え移るんだ。誰に見せたって、これは伝わるはずなんだ。

悪ガキはいつだって、自分を舐め下す野郎に噛みついて、ぼこぼこに殴ってやりたいと思っている。誰のためにでもなく、実はそいつを恨んでいるわけでもなく、心底、自分のために。自分にやさしくするために。その表現が、ぶちまける相手が、たまたまアニメーションだったりするだけのことなのだ。

素晴らしいことに、こういう「1作目からクレイジーな作家」というのは、実はアオキタクトだけでなく他にも結構いたりするのである(いきなり30分越え、みたいな作家意外と多いんです他にも……)。はちゃめちゃな世界でしょ? 大好きだよ、アニメーション。

このブログの名前は「『ショート』アニメーション千夜千本」だが、こういう長い作品もバンバン取り上げていく所存です。アオキタクトは本作のドロップ後、さらにスタッフを増員し(今度こそ本当の)長編作品『アジール・セッション』に取り組む。

*1:ほんとは中篇かな、30分だったら。