ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『ファイアボール』荒川航【57夜目】


先日松慶さんを取り上げたときに、「好きだったショートギャグ作品って他に何があったかなぁ」とぼんやり考えた。そこへ、ちょうど『ファイアボール』の新作発表ニュースが飛び込んできた。そうだ、例えば『ファイアボール』があった。

ウォルト・ディズニー・スタジオ史上初の日本人チームによる新作ディズニーアニメとして、CSチャンネルで放映された作品。ちょっと高飛車なロリお嬢様ロボットと、「お嬢様にお仕えしている」武骨な使用人ロボットのやり取りを描いたコメディ作品だ。一話2分の枠をギリギリまで使い込む超スピード展開、そして「日本語」の面白さをよく引き出した会話劇が痛快だ。ドロッセルの、ツンツンしてるのにちっとも嫌味じゃない甘えん坊キャラ、なのに時々めちゃくちゃ凛々しくカッコ良く見える瞬間の素晴らしさ。そしてゲデヒトニスの誇り高き執事っぷりはどれもキャラクターがよく立っていて、いつまでも見ていたくなる魅力がある。3DCGであることを生かしたメリハリのある動き、そしてモデルのようなドロッセルの決めポーズもユニークで飽きさせない。そしてここが凄いんだけれど……、最初から最後まで、一貫してある「ストーリー」を展開しているのが見事なのだ。実は非常に作り込まれた、謎の多い舞台設定になっているのだが、本編では視聴者の興味を失わない程度に、実にさりげなくそれが解説されていく。この、「本編のギャグとはまた別軸で視聴者の不安と興味を煽るようなストーリーを展開させ、最終回付近で合流させる」というテクニックは、最近だと正に『けものフレンズ』がやっていたそれなのだ。伏線が回収され、思わず拍手してしまうほどに、スカッと格好よく『ファイアボール』は完結する。あのラストの痛快さが、この作品を傑作にしたと思う。

続編である『ファイアボール チャーミング』も面白いが、かなり本作を「踏まえた」内容になっているので、その意味ではやや精彩を欠いているかもしれない。『スーパーマリオブラザーズ』と『スーパーマリオブラザーズ2』みたいな感じ?なのでまずはやはり、この第一作目から見てほしい。とてもおすすめです。

この作品の監督やってる荒川航って、何者なんだろう……。ウォルト・ディズニー・ジャパンのテレビ関連事業に所属するクリエイティブ・ディレクターとのことだけれど。これがデビュー作且つ、唯一の代表作だなんてとても思えない……上手すぎるだろう……。