ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『sleepy dance』84yen【54夜目】


その奇抜かつユニークなセンスで、日常にひそむ「目には見えない何か」を描き出す84yen。そんな彼が、いわゆるボカロっぽい曲に映像をつけるとどうなるのか? それがこれだ。……本当に、いちいち作品の度に違うチャレンジをしていて、驚かされる。

冒頭こそしっかり「ボカロ」っぽいカルチャーを咀嚼していて、過去の作品よりもずっと「寄せている」なと感じさせられる。そこからまず「壊れる」のは物語……どうも不穏なシーケンスが連続すると、作品は途端に抽象パートへと突入する。そして挿入されるモーショングラフィックス風のノイジーな映像、そして手描きグラフィック、コラージュ、さながら実験映像のようなカラフルな実写パート――実にてんこ盛りだ。そしてそこから、アニメーションはようやく「はじま」ってゆく。

ワンカットごとに収められる情熱や、暴力にも似た壮絶な作り込みが素晴らしい。すげえ厳しいことを言えば、(この作品については)まったく見たことが無い映像では確かに無いのかもしれない。それでも、ひとつの音、ひとつのメッセージ、ひとつのカットに全身全力でぶつかってくる様が、スクリーンを越えて鑑賞者の脳天に突き刺さってくる。規格外の8分半(!)におよぶ「ボカロPV」は、発表当時からニコニコ動画視聴者の度肝を抜いたことだろう。彼の本当の才能とは、実は、ここなのではないか。

……あんまり自分が触れるのは好きじゃないから、あえて上では書かなかったけれど。この作品の発表は2011年9月。なるほど、けっこう明確に「震災後」の作品だな、そういえば。と思う。