ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『ちいさい音ダイアル』84yen【53夜目】

僕が初めて84yenの作品を観た作品が、これだった。

昨日、おとといと84yenの作品を紹介してきたが、この『ちいさい音ダイアル』の作風には驚かれるのではないか。いわゆる「怖い」演出もなく、コラージュもデジタル作画も使われていない、全編ガチ水彩アニメーション(CG技術は使われているけれど)。やわらかな女の子のキャラクター、多くを描かないミニマムでカラフルなグラフィック、水彩による紙の「よれ」も取り入れた画面づくり……。どれも素敵だ。肩の力を抜いて、じっくりと観てしまう作品だと思う。

ゆったりした時間、静謐な音楽も素晴らしいけれど、何より、描いている“内容”がいい。とても切実で、さびしくて……。水彩アニメーションだなんて、そんな面倒くさい技法を使ってわざわざ描こうとしてるのが、目には見えない「音」という存在そのものなのだ。この世界に確かに在るのに、誰もが目を向けない「何か」を突き詰める――過去の作品との連続性もしっかりとある(ちゃん「芯」のある作家なのだと思わせられる)。ぐっとくるレンジの広さだ。ポストに手を突っ込んで、くるくるしているカットも素晴らしい……。どうしてこんなの思いつけるんだろう?

84yenはこれの制作当時、東京の某美術大学の学生だった。そういう意味では、彼が大学の中でよく見かけていたアニメーションって実はこういうものだったのだろう。アートスクール系としてはマァマァ見なくもない作風も、彼の手にかかると、こうなる。