ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『将棋アワー』青木純【31夜目】

あなたがもし「アニメーション」を作りたくなったならば、まずどんな内容のものを思い浮かべる? キャラクターが動きまくるバトルアクション? 瑞々しい高校生たちの引き裂かれるような青春劇? 重厚なストーリーが展開する近未来SF? それとも寝静まった夜に動き出したくるみ割り人形たち……?

ベタな例えを出しおって、と思われるだろう。けれど、アニメーションの常識からのみで、ここからの「ズラし」を思いつくことは結構難しい*1。いきなりやりたい企画があって、どうしようもなくアニメ制作にのめり込んでゆく人間ばかりでも、確かにないと思う。そういう場合……ありふれているけれど、そこからまず抜け出す発想法の一つに、こんなものがある。……「自分が“アニメ”以外に好きなものとは何だろうか?」。

それを組み合わせた、最高の結果のひとつがこれだ。非商業だから、ショートフィルムだから、アニメーションだから、この絵柄だから……成立していることは沢山ある。けれど一番のポイントは、やはり題材選びの巧みさなのだと思う。ここで「将棋」を選んじゃうのが、より正確には「将棋中継」を選んじゃうのが、この作家の強烈な個性だったのだ。いろんな作品があっていいのだ。当たり前のことだけれど、この作品の登場は、とても多くの作家たちの発想のレンジを広げたと思う。だから、ぜひ見ておくべき作品だ。もちろんこれ以前も、これ以後も、個性的な作品は沢山あるけれど……。

タイトルの『将棋アワー』が実にうまい。この作品のキモは、対戦相手がロボットであることでも、と金を必殺ビームで焼き切ってしまうことでも、角田信朗のそっくり人物を登場させていることでもない。誰もが知る、あの番組独特の「間」を忠実にパロディにしているところなのだ。あの「間」をアニメーションに置き換えた途端、こんなにも異様でたまらなく笑えるものになってしまう。だからタイトルが、『将棋“アワー”』なのだ。

*1:もちろん、やるけどね!