ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『夏と空と僕らの未来』井端義秀【25夜目】

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一つの強いアイデアが、語り草になる作品がある。井端義秀の『夏と空と僕らの未来』なんて、正にそれだ。

作品が始まると、マンガのコマ割りがあらわれる。その中に登場人物が駆け込んでくる。今で言う「モーションコミック」風の演出……最初だけは。作品の設定はベタ中のベタだ……これも最初だけは。ある放課後、男の子は、よりによって女の子へのラブレターを机の上に置き忘れてしまう。慌てて教室まで取りに戻ると、そこには謎の少女がいて……。

圧倒的なポイントは二つ。まずは「アニメーションの中にマンガがある」というアイデアに対して。女の子と男の子のドタバタな追いかけっこは、次第にコマ割りを破壊し、縦横無尽にその上を駆け回るようになる。この「ネタ」の豊富さといったら! こういう映像自体は、初めて観るものではきっとないだろう。しかし10分近くもあるこの作品では、この「マンガである」というコンセプトが最後まで徹底的に貫かれている。それがまた、この「ワンアイデア」で思いつくものはほぼ出尽くしたのではないか、というほどに詰め込まれ、また作り込まれているのだ。つまり、このネタの金字塔となっているのだ。そこが素晴らしい! これから十年間、同じようなネタを誰かがやったとしても、これを上回れるかはちょっと疑問だ。単に視聴者を楽しませてくれるだけでなく、シナリオの切り替えポイントで効果的な「演出」にきちんとなっているのもまた、本当に抜群なのだ。内容自体にこの演出の必然性があったのだ。

もうひとつはシナリオだ。まるで僕たちの甘酸っぱい青春漫画のような、タイトルにもある『夏と空と僕らの未来』なんて青臭い単語を3つも並べちゃうみたいな……そんな風通しのある演出そのものが、このシナリオの一種の「皮肉」になっている。とても残酷な真実が、後半では明らかになる。だけれど、でもそれでも、僕たちはきっと未来を信じて、そして想いを届けようとするのだろうーー。一瞬を燃やし尽くして夏の青空に、僕らの未来をふわりと浮かべる、そんな青春の爽やかなラストシーンに、ちくりと乗っかる「痛み」が観るものを決して離さない。たぶんこれは、あなたにとっても忘れられない物語になるだろう。

やっぱり、ワンアイデアだけではエヴァーグリーンにならないのだ。ここの、この瞬間に刻みつけた「王道」の「想い」があるから、この作品は未だに色褪せることがない。映像の面でも、シナリオの面でも、それぞれのキャッチーさが見事に噛み合って、それが昇華されている傑作だ。実に見事な作品だと思う。

作者の井端は、この次に『ツキ姉と僕』という作品を発表したのち、商業作品に軸足を移す。その後はテレビアニメの世界で着実にキャリアを積んでいらっしゃっていて、『四月は君の嘘』の素晴らしい回を見終えた後に、井端(さん)の名前を「絵コンテ・演出」欄で発見することが出来た時には、言葉にならない感動があった。その時たまたま、ネット上で言葉を交わすことが出来てすごく嬉しかった。井端(さん)は2017年現在も、テレビアニメの演出家として活躍している。