ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『アメリカンホームコメディ』熱湯【24夜目】

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前作『山田君ロックンロール』で、会場に集まった観客に手拍子を促す「参加型」アニメーションを提唱した熱湯。彼はこの作品で、さらにとんでもないことを企む。作品が始まると、(『フルハウス』みたいな)いかにものアメリカン・ファミリーがテーブルに座っている。その手前に、プロレスのお面をかぶった男がこちらへスケッチブックを向けている。そこにはこう書かれていた。……『大爆笑して!』。

「ライブ」の熱狂をスクリーンに再現した熱湯が次に思いついたのは、より映像という媒体に密着した……「シットコム」の会場での再現だった。謎の男から、指示が次々と示される。『えーって言って!』『拍手して!』。なぜかアメリカン・ファミリーすらこっちを見て(第四の壁が破壊されている)いて、こちらがアクションを起こさないと、画面内のアメリカン・ファミリーの話はまるで進まない。はちゃめちゃだ! さらに!! この一回限りの上映の、観客の拍手や声を録音し、後日アニメーションと「合体」させたバージョンがネットで発表されたのだ。さながら本物のシットコムのように! 今振り返っても、あまりにも斬新で、ほかに類をみない革新的なアイデアだっただろう。鳥肌が立つような思いだ。

さらにだ! 熱湯のウェブサイトのフィルモグラフィーからはカットされているが、実はこの後にもう一本、熱湯には『うたとリズムのわくわくキャラバン』という作品があった。これは「slashup★02」というオフラインイベント用に作られたもので、作品が始まるとうたのおねえさんが出てきて、「リズムにあわせて足を踏みならそう!」みたいな指示を観客に出すというものだった。もともと「slashup★02」は東京、大阪、さらに札幌や博多での開催も予定された「全国ツアー」イベントだったが、観客が集まらずに2公演が中止された。後で熱湯(さん)の掲示板に自分で聞いてみたのだけれど……実は『うたとリズムのわくわくキャラバン』は、各会場ごとに内容を変えていて、例えば東京では足踏み、大阪では手拍子……といったように、指示するものが違うはずだったらしい。そしてそれを録音し、最後には全部合体させた全国バージョンをネットに発表する積もりだったとか! や、やばい……。残念ながら「slashup★02」は観客を集めきれず、このコンセプトも消滅。熱湯にとっても、これが最後のアニメーション作品となった。FLASH・動画板でのアニメーションの盛り上がりが、終息に向かいつつあることを証明するような出来事でもあった。

スクショは、公開終了時にアップされていた画像より。