ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『山田君ロックンロール』熱湯【23夜目】

f:id:friendstudio:20170508170350p:plain

熱湯がもうひとつ革新的だったのは、このころ勃興していた「オンライン上映会」に(この作品で)新しいアイデアを吹き込んだことだ。インターネット上にアップされたものを各自のPCで見ながら、2ちゃんねるの専用スレッドに感想を書き込み、たまに誰かがブログに感想をまとめたりもする、そういうスタイルを越えて、実際に大きなホールを借り切って作品上映……。中の人的に繋がりはないものの、今の「FRENZ」に続く流れをくんだ上映会が巻き起こり始めていた。より大スクリーンで、より大音響で、そして全員で「神職人」たちの新作を楽しむ……。熱湯は、その流れにも、ユニークかつ独特で、そして大胆なアプローチを試みたのだ。

内容自体は、もう見て頂くしかないのだが、とにかく劇中でコミックソングが唄われるというもの。しかしすごかったのはここからだ。その画面の隅っこに、4つ打ちのリズムに合わせて点滅する丸いマークをつけたのだ。「拍手インジケータ」と名づけられたそれは、観客に「このリズムに合わせて手拍子を打ってくれ!」と促すものだった。当日、その会場に僕はいなかったけれど……それでも熱狂が伝わってくる。歌と拍手が一体になる、全く新しい「オフライン上映会」に特化したアニメーションのアイデア。ああ、くやしい。こんなやり方もあったのか!

アニメーション一本で観客に拍手を促し、会場を一体化させる。音楽は盛り上がり、爆笑は爆笑を呼ぶ。この観客参加型のエンターテインメントの提供は、今思えば「応援上映」の先取りではないか。この革新的なアイデアで、熱湯は一気に、オフライン上映会に欠かせない存在としてその名をあげることとなったのだ。