ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『はいいろさんは昼がこわい』84yen【52夜目】

今回このブログで84yenを取り上げるにあたり、ざっと代表作を見直したんだけれど、これは今回初めて観た作品。独特の、ダウナーで不気味な、観ているこちらが不安になるような「感じ」を描く84yen。日常生活でなぜか私たちが「目を背けている」ようなものを、えぐいくらい真直線にフィルムから映し出している。鋭い白黒のコントラスト、幅広いシーケンスの選択、1コマづつにまで注ぎ込まれた「動き」へのこだわりも素晴らしい。

ニコニコ動画のコメント欄にも書いてあったけれど、一見不気味な作品なのに、これを観ていてどこか「ほっ」とすると言う人もいるかもしれない。よかった……「目に見えない不安」は、やっぱり存在するんだ、って、ちょっと安心するような感じ。少し、わかる。

といいつつ、『時間が余りまくった若者が、その焦燥感をぶつけようとがむしゃらに作られた作品』というのが真実だったりするのかな。どうだろう? 間違いないのが、84yenが「わりと最初から」身に着けていたこのセンスに、自身で決して溺れなかったことだ。彼はこのフィルムから、その後、さらにさらに大きな飛躍を重ねてゆく。

『走るチルノ』84yen【51夜目】

きのう紹介した杉本と、今日から取り上げる84yenは、共に「うごくクソ画像コンテスト」というオンラインイベントを主催している。時にハイコンテクストで、技術力も要求される「アニメーション」というジャンルに、まるで反旗を翻すような低コスト、無意味、さながら「これを観るのは時間の無駄だよ」とでも言いたげな狂った作品を集めまくるというものだ。これに出展されるアニメは、どれも尖っていて本当に面白い。このイベントに主催者でありながら率先して作品を送り込む84yenは、FLASHからキャリアをスタートさせ、現在に至るまで数多くの作品をオンライン上に発表している。

彼の、その独特の「感じ」が、よく解る一本を紹介する。

音楽との同期もさることながら、じわじわと伝わるこのダウナー感たるや! 多くの人が理由もないのに「怖い」と感じる、あのどうしようもなくフラついた恐怖を、本当に描き出すのがうまい作家なのだ。

もちろん、彼の作品がこれ1本だけなら、さすがにただの一発屋である。けれどこの「才能に見えなくもない狂気」が、鑑賞者の想像を絶するほどの「本物」であることを、そして彼が「この才能」におぼれず、どれだけ作品制作で血反吐を吐くまで戦い続け、自身を革新してきたのかを、これから数日間の更新でじっくりとお目にかけよう。

『映像制作を助けてくれ』杉本【50夜目】

キリ番には大事な一本を選びたい。と思っていたらこれになってしまった。台無しだ。

熱狂のアニメーション上映イベント、「FRENZ」に出場するアニメーション作家・杉本による作品。めちゃめちゃラフな(というか、汚い(笑))絵で、社会人をやりながら趣味でアニメーションを作る憂鬱を巧みに描き出す。すごいのがこのグルーヴだ! 最初こそ丁寧に物語をイントロダクションするのに、繰り返されるシーケンスがやがて混在し、まるでリミックスみたいに、どんどんぐちゃぐちゃになっていく。その凄まじさたるや! 息が出来ないくらい笑いながら見ていると、思いがけず感心させられてしまうほどのセンスの良さなのだ。

もはやこれって前衛だよね? いわば、プログレッシブ・アニメーションだよね。音楽的な映像のセンス、笑わせる力だけでなく、共感させる能力も兼ねそろえた見事な作品。いま知られている以上の方に見て頂きたい内容だ。いやー、すごいね。あばばばばばばばばばばば!!!!!!!!!社会人には無理!!!!!!!!!!!!!

『みゃくみゃく -Drops of Life-』今林由佳【49夜目】

『おにしめ おたべ』を制作した今林由佳の、こちらは二年次作品(大学院なので、二年で修了になる)。『おにしめ~』よりはぐっと内容が「表現」寄りになっているけれど、冒頭、目をとじたままほっぺたをくっつけあう「それら」たちのグラフィックを観た途端から、きっと理屈を越えてときめいてしまうはずだろう。

『おにしめ おたべ』もそうだけれど、これも途中から結構「何を描こうとしているのか」がすぐに判ってしまう。そのスリルや一種のロマン(想像力)を楽しみたい方には、少し不向きな作品かもしれない。非常にゆったりした内容で、途中からまどろんできて、ぼんやり画面を眺めてしまうかもしれない。けれど、どちらも、それでいい。実際と想像の、眠りと覚醒の、そのはざまでも、脈々とわたしや、わたしにとって大切な誰かの身体を、しっかり動かしているのはこの子たちなのだ。

最後の一言がいい。その声があるから、また作品は日常へと還元されてゆく。眠っている間もわたしの中を漂い続けた「なにか」に、この夜も生かされて。……ねえ、あなたへ、「おはよう」。

『おにしめ おたべ』今林由佳【48夜目】


昨日の記事で、久々に『Googuri Googori』を観たら、何となくこの作品も一緒に思い出された。連想ゲームブログです、ここは。

前回に続いて、今度は母と子の対話だ。お台所で、母親の料理を子どもが後ろから眺めている。母親が作っているものが何なのか、まな板の上で切り揃えているものが何なのか、もしかすると娘はまだいちいち把握していないのかもしれない。けれど彼女の目に映る世界には、確かに記憶に留まるような興奮や感動がしっかりとある。そういう瞬間をやさしいタッチで、そして同時に、わくわくするような冒険物語として描き出している作品だと思う。

ある意味、何でもない内容なんだけれど、やっぱりめっちゃいいなァ……。最後に全部煮えてるところで涙が出そうになるな……。鶏もも肉のあのたぷたぷ、ふよふよした感じ、特に「さらに」切り分けるところのシズル感たらない。にんじんがシャキッと切れる所も何度でも観ちゃう。干しシイタケを戻す時間をちゃんと分割しているのもいい……。そうだ、料理って、子どものころ観ていた料理って、確かに、こうだったな。

最後、お父さんを呼びに行くのは、いつだって子どもの役割だ。ととと、と走る直前、シュポッて栓を抜く音がするのは、やっぱりお父さんのための瓶ビールなのかな。

このフィルムもまた「藝大院アニメ」のひとつで、今もバリバリアニメーション仕事をこなす今林由佳の一年次作品だ。「藝大院アニメ」の中でも、さらにキャッチーなほうだと思う。

『Googuri Googuri』三角芳子【47夜目】


東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻、いわゆる『藝大(院)アニメ』は、現在日本のトップに位置づけられるアニメーションの教育機関だ。ベルリン国際映画祭銀熊賞を勝ち取った和田淳を皮切りに、各分野で活躍する数多くのアニメーション作家を、初年度から次々と輩出し続けている。たまたまだけれど、47本目にして、ようやく「藝大院アニメ」の作品を取り上げることになった。

おじいちゃんと孫娘の、声と手触りで交わし合うふしぎな対話。変幻自在なのにどこか(いい意味で)マンガチックで、親しみの持てるキャラクターがいい。指もおてても柔らかくて大きくて、具体的な絵になっていることは画面中ほとんどないのに、何も不安に感じることがない。色も実に素晴らしい……このひとだけの「白」を持っている作家さんだ。

ぼく自身が、おばあちゃんっ子だったから、何か「よくわかる」感じがある。夜遅くに、疲れて寝ちゃってるおばあちゃんのベッドの中に潜り込むあの感じも。お母さんが引っ張り出す勢いで、ちょっと怒ってる感じも。気持ちの中では、あのスピードで自分がシュッと動いている感じも。後半の……彼女の息遣いの感じも。おばあちゃんが寝ていたベッドに、後でひとり身をうずめる感じも。けれど今見ると、少しお母さんの気持ちもわかったりした。止めたくないけど、やっぱり止めるよね……。いつか、このおじいちゃんの気持ちになれる日も来るのかな。

ひとつだけ。こういう作品をパソコンで観るときは、出来ればフルスクリーンにするとよい。多くのアニメーションが、劇映画としてのこだわりを画面の隅々にまで配置している。動画サイトやマルチウィンドウなどで、他の要素(文字だったり、他のソフトだったり、動画サイトの関連動画アイコンだったり)が周囲にあることを想定しないで作られているのがほとんどなのだ。「それって、面倒くさい押しつけじゃない?」と思われるかもしれない。でもでも、もしよかったら、この作品は少なくともフルスクリーンで……。小さな画角ではちょっと伝わらない、画面全体のやわらかなさざなみが泳ぎ出した途端、ああ、そういうことか、と、きっと思えるはずだ。丁寧に作られたアニメーションは、スクリーンという「枠」からまず、しかも一から設計がなされているのだ。

ちなみに、このおじいちゃんの声優さんめっちゃいいな……と初見のとき観ながら思っていたら、クレジットを見て、その正体にひっくり返った記憶がある。特に恩師とかではないらしい。逆にすごいな!!

三角(さん)はアニメーションだけでなく、絵本作家としても活躍している。自主制作では、2011年にも『Mosquitone』というシリアスなアニメーション作品を発表している(けっこう、作風が違う)。たしかどこかで観たんだけれど、記事を書けるほどは覚えていない……また観る機会が出来たら、書きます。

『ポンコツクエスト』松本慶祐【46夜目】


数あるコントアニメーションの中でも、言葉のセンス、そして細かな作り込みで群を抜く『ヤイヤイ森のコミー』の松本慶祐初商業作品であり、いきなり大ブレイクすることにもなった逸品。YouTube、BSでの放送も注目を浴びてはいたものの、これがAbemaTVで放映されるや否や一気に認知度が高まり、すごい勢いで人気作へと駆け上がっていった。

とにかく、この「第六章」を観てもらえばわかる。これだけで『ポンコツエスト』の凄まじさが伝わるだろう。どこか「上品」で愛らしいキャラクター、巧みな美術、言葉のセンスや計算された会話劇の心地よさを『コミー』から引き継ぎつつも、そもそもネタの爆発力が圧倒的に高まっていることをまざまざと感じさせられる。だいたいどの回から見てもめちゃめちゃ面白いのがすごい。『賭博』も『迷宮』も『紅一点』(最後で笑い死にそうになるぞ)もいいぞ。最新話からいきなり観ても、きっと楽しめるはずだ。

キャラクターが増えるにつれて、だんだんキャラのデザインがリッチになりつつあるんだけれど、そのセンスも益々磨きがかかっているような気がする。ほんとに絵がうまい方だ。

クロヌマかわゆす……。

『ヤイヤイ森のコミー』松本慶祐【45夜目】


好きな作品のことばかり書いていればいいから、このブログは楽ちんだ。ちょっと不公平な気もするので、ぼくが苦手なジャンルの話もする。一番積極的に見ないのは、いわゆるショートギャグだ。面白いものは本当に面白いけれど、正直苦手に感じる作品も多い。昔でいうとマネキン一家のやつとか、ブラじゃないやつとか、最近だとTOHOシネマズに行っても109シネマズに行っても見せられるあれとか……。単に笑いどころがわからないだけじゃなく、「低コストの会話劇で人の心をつかむ」という方向性自体が自分の作品と似ているから、ぶっちゃけ仮想敵だと思っていた時期すらあったのだ*1

そんな中で、数少ない例外のひとりが、松本慶祐だ。

松本の自主制作作品『ヤイヤイ森のコミー』は、うさぎの姿をしたコミー君が、毎話「森のなかまたち」とコントを繰り広げる作品。何がほかと違うんだろう? わからないけれど、他の作品よりもどこかがスマートで、ずっと作り込みが細かくて、そして脚本が面白い。『オー!マイキー』よりも愛らしく、『GOLDEN EGGS』よりもツッコミが鋭く、『紙兎ロペ』よりもずっと上品なのだ。たぶんだけれど、この「“何か”いい」の正体は、もしかすると“心地よさ”なのではないか。耳に飛び込まない丸められた音質、環境音、リズミカルに重ねられた単語が、まるで音楽のようにすら感じられるのだ。グイグイこっちにやっては来ない謙虚さ? こちらが聞き耳を立ててる感じ? とかもあるし。うーん、まとまらない……。ちなみにこの会話劇は、全てフレーズごとにばらばらに音声を収録し、編集で重ねているという(ご本人から伺いました)。つまり、松本作品、アドリブはゼロなのだ。そこにも秘密があるような気がする。

また、(意外と語られることが少ないように思うけれど)松本は絵が非常にうまい作家だ。いいデザインだな、とジックリ見ちゃう愛らしいキャラクターもさることながら、特に背景美術が巧みだ。しっかりと細部まで描き込まれているし、色使いも本当に素晴らしい。植草航の『やさしいマーチ』の背景を描いているのも、松本だという。


おすすめは5話と12話。オーグッボーイグッボ~イ。この言葉のセンス、ツッコミの面白さ、シニカルさの中にある愛らしさが、存分に生かされているエピソードだと思う。9話の高熱でぼんやりしたコミー君も可愛らしい。

この『ヤイヤイ森のコミー』も十分いけてるけれど、もし今から見るなら、明日紹介する作品のほうがいいかもしれない。これよりもさらにさらに、そして圧倒的に、面白いので。

*1:けれど、後に『Peeping Life』のプロデューサーと一緒に『旅街レイトショー』を作ったりすることになるのだから、ほんと人生ってわからない。

『5iVE STAR』2501×森井ケンシロウ【44夜目】


歴史的傑作『日本橋高架下R計画』で、アニメーションとモーショングラフィックスの境界線を突破し、現在まで続くカルチャーを作り出した細金卓矢。彼のその原点と言えるのが、まだ彼が2ちゃんねるFLASH・動画板のコテハン「2501」だった頃に制作された、この作品だ。同じくFLASH・動画板に出入りしていた、当時はFLASHアニメーション作家だった森井ケンシロウ(現在は漫画家としても活躍)とタッグを組んだもので、その頃はこうしてモーショングラフィックス作家とストーリーアニメーション作家(下らない……)がコラボすること自体、かなり新しいものに感じられたものだ。

ワクワクするような冒頭。プラグが刺さった瞬間の圧倒的な幸福感。まるで砂場で遊んでいるみたいに、唐突かつ暴力的に差し込まれるアニメーション! 平面的なことが当たり前だったFLASHアニメに有機的な暖かみを加え、それまでのどの「モーショングラフィックス」にも無かったキュートなポップさを持ち合わせていた作品だった。正直、周囲のどのMGよりも圧倒的なずば抜けぶりだったと思う。最後に訪れる、風のような疾走感は特にたまらない。鼻の奥がツンとするようだった。

当時、矢印がぎゅーんって動くことが「モーショングラフィックス」のお約束の一つだったんだけれど、それをこうして一枚一枚、まるで龍のように生き生きと描き出してみせたことも衝撃だった。2501は何歩も先を行っている……。そう感じさせざるを得なかったものだ。

この『5iVE STAR』は本人たちの手で一度リメイクがされていて、クレジットはその頃より「2501」から「Takuya Hosogane」に修正された。ちなみに2501時代の作品まで遡り始めると、本当にキリがなくなるので今は止めておく……。500か600くらい行った時に、FLASH作品はまとめて一気に取り扱うつもりです。1、2年くらい先のことだろうけれど……。

『Madrix』細金卓矢【43夜目】

お題を与えられ、そこから8時間で新作映像をひとつ作る……『Cut and Paste Tokyo 2009』というトーナメント・イベントに、細金が出展した作品。超短距離走で制作されているからか、細金の持ち味であるポップセンスが存分に生かされたものになっている。細金は本作で、大会に優勝した。

彼の(当時の)得意技だった記号的なヴィジュアル、ビビッドなカラーリング、テンポの早い展開は出色だ。……とは言っても、やはり何よりもユニークなのが、一体どうやって思いついたのかはサッパリ判らないが、家の「間取り図」をモチーフとして取り入れていることだ。我々が安い紙に印刷されたもので見たことがあるような……平凡な家々の間取り図が生き物のように動き、変形し、増殖してゆく。まるで見たことがない映像になっていた。抽象的なのに、とても具象的……。細金の強みである「発想力」が、特に感じられる作品だろう。

この1本が契機となり、細金はテレビアニメ『四畳半神話大系』のエンディング映像を依頼されることとなる。本作『Madrix』を発展させたような作品になっているので、こちらも併せて観賞してみて欲しい。