ショートアニメーション千夜千本

短編アニメーション作品を紹介してゆきます。まだ見ぬ作品に触れる機会にして頂ければ幸いです。

『Vanishing Point』細金卓矢【42夜目】

モーショングラフィックスの雄、細金卓矢の個人作品。驚くなかれ。本作の発表は2010年だ。正方形の画角、有機的なカラーリング、3DツールにはCinema 4Dが取り入れられ……(繰り返すが、7年前である!)。当時これを観た時は、細金の他の作品と比べるとやや難解というか、少々アカデミックすぎて、あんまりキャッチーではないな……と思った記憶がある。それがどれだけ間違いだったのかということだろう。5年先、8年先に「最先端」とされるヴィジュアルを、細金はこの頃から予期していたのだ。

平面的で、記号的なものをとにかくがむしゃらに動かし尽くす……。モーショングラフィックスには、当時の「流儀」にも似たカルチャーがあって、そこからいかに新しい表現を生み出すか、誰もが競うように試行錯誤していたように思う。細金の作品は、何か、そこから「有機的」なものを作り出そうとしていた印象がある。直線よりも曲線。平面よりも奥行き。記号よりも、生命……。

彼が「有機的」の北限のような、深夜アニメ的なカルチャーの作品へ(結果的に)接近してゆくことになったのも、なんとなく流れを感じさせるものがある。彼はこののち、『日本橋高架下R計画』で、それらすべてのカルチャーを接着させることに成功することになる。

『日本橋高架下R計画』細金卓矢【41夜目】

GIFアニメーションのカルチャーが「WEB系アニメーター」を生み、2ちゃんねるFLASH・動画板が「PV系」……のちの「MG系」と呼ばれるモーショングラフィックスのカルチャーを育て、After Effectがアマチュアクリエイターにも浸透し、ニコニコ動画Vocaloidを発掘して、Tumblrがまったく新しいウェブジャンキーたちを生み出して……。2000年以降、ウェブのカルチャーに起きた変化の、その全てが濁流のように流れ込み、突如として生まれた歴史的傑作ミュージック・ビデオが、これだ。音への天才的な感性、そして抜群のポップさで一目置かれていた細金卓矢がそのセンスをまざまざと見せつけ、優れた「動かしまくり」のWEB系アニメーターは惜しげもなく腕をふるい、ボカロをカルト的人気にまで押し上げたじん(『カゲロウプロジェクト』を生んだ人物)が、最先端のVocaloidだったIAを使い楽曲提供をしている。

3秒〜5秒で次々に展開する「驚きに満ちた」カットの数々。そのどれもが、ワンカット切り抜いてもbuzzに耐えうる強度を持ち合わせている。全体的に、音楽ともよく合った、決して声高ではない景色の描かれ方……平熱感、涼しさがあって、正に2010年代の若者の「カッコ良さ」をここで定義しているとすら思う。女の子の可愛らしさ、時々みせるフェチっぽさは極めて日常的な風景の中で消化され、「今」っぽいアイドルのセンスを嫌味なく昇華させている。色彩設計も素晴らしい。何より作品がとてもリズミカルで魅力的だ。何度でも何度でも観たくなってしまうのだ。この1分19秒に込められた情報量、センス、そしてウェブカルチャー全てを飲み込んだ上で蒸留させたような新・「定義」に、くらくらするほど酔わせてもらえたものだ。

絵コンテは見富拓哉。本職は漫画家・イラストレーターで、細金と共に、本格的なアニメーション挑戦は初めてだった。25歳の若者が知恵を絞ったこのミュージック・ビデオは、紛れも無く我が国のサブカルチャーの転換点だった。これらのアニメのカットは裁断され、当初からTumblrでもカットごとにリブログ出来るように仕掛けられていた。発表は、2012年春。今見ても、この作品が及ぼした影響力のあまりの大きさに、そして先見の明に、驚かされてしまう。絶対に見ておくべき作品。

『ほかほかおでんのうた』細金卓矢&山下清悟【40夜目】

モーショングラフィックスはまったく専門分野ではないので、より詳しい方が丁寧に説明してくださることはきっとあると思うけれど……。ここ数年で、抽象絵画のようなアプローチがメインストリームだったモーショングラフィックスに、急激に具象的なアニメーションの流れが持ち込まれるようになってきた。この映像は2012年の作品だけれど、このあたりでその傾向が決まってきたような気がする。

ローソンのおでんのCMとして制作された『ほかほかおでんのうた』。「WEB系」アニメーターで知られた人物のひとり、山下清悟と、日本で最も有名なモーショングラフィックスの作り手である、細金卓矢がタッグを組んだ作品。昨日まで紹介していたらっパルも、絵コンテで参加している。ロトスコープのようなゆらゆらの動き、湯気、そしてシズル感のあるアニメートがたまらない。音楽も可愛らしいけれど、この音楽の「感じ」を最大限に引き出す、とてもミニマムな演出プランというか、作品の方向性のゆるさが、実に鋭いと感じさせられる。この辺りの配分は、細金卓矢の腕の力が大きいだろう。

細金卓矢は「2501」名義で、かつて2ちゃんねるFLASH・動画板に出入りしていた「FLASH職人」だった。彼が特別たる所以について、あえてフィルモグラフィを遡る形で紹介してゆく。

『カナメヲ』らっパル【39夜目】

いわゆる「WEB系アニメーター」であり、特にエフェクトアニメで世に知られるようになった早熟の天才・らっパルが、2015年に突如発表した短編作品。その内容は、彼のこれまでのフィルモグラフィと連続性がありながらも、想像を絶するほどの圧倒的な飛躍を遂げた、戦慄を覚える出来に仕上がっていた。

この中には、多くの示唆がある。物語のヒントはあちこちに散りばめられている。けれど圧倒的な筆力で描き出され、視聴者の網膜に焼き付けるのは……この子って何なんだろう?どういう存在なんだろう?一体ここで何が起きているんだろう……そういう疑問も当然頭をよぎるのに、見届けてゆくうちに自然とそれも消えていって、最後には、ただのシーンの羅列にまで解体されてゆく。ワンシーン、ワンシーンごとそのすべてに、あまりにも切実でまぶしい、生きていこうとするものたちの生活の風景がある。不思議な出会いも、滅入るほどに薄暗い部屋の中も、すべてが残酷なほどに並列した、爆発しそうなくらい平凡な「日常」だ。音楽のノイズはフィルムが進むにつれ激しく、ますます掻き毟られるように奏でられてゆく。次々に「刹那」が紡がれてゆく……落雷、雨、神木、煙、水、雪、そして快感。夜空に星がいまも光り続け、遠くで火薬が炸裂し、仕事を終えて家の扉を開けるたびに、そこにあなたがいることすらも……全てが確かなものではない。いつだってそうなのだ。わたしたちは消えてしまう運命に勘づきながら、食べて、寝て、起きて、排泄して、仕事に行って、たばこを吸って、薬を飲んで、バッティングセンターに行って、愛し合って、そして死んでゆく。このたった5分間には、家で思わず叫び声を上げてしまいそうになる、まだ言葉になおらない、息が苦しくなるほどの焦燥感と、目を細めるほどのまぶしさがあるのだ。あまりにも特別で、衝撃的で、そして衝動的な、傑作だ。

ワンシーンごとの見栄えの見事さは勿論だけれど、残酷なほどに生々しく、そして切実な詩情が全編に散りばめられていることが抜群に素晴らしい。作者は、自分のこういう感性を、もっと信じていいんじゃないかな、と思う。同時期にリリースされた『東京コスモ』や『纏の国のガルダ』とあわせて、『フミコの告白』以来凍り付いていた若い感性のオリジナル・アニメーションが、とうとう再び鼓動を打った金字塔だろう。多くの若者にとっての、ヴァイブルになるべき作品。

ついでにいうと、「天気予報」が出てくるアニメは、基本的に、名作です。

『プレゼントまでの道のり』らっパル【38夜目】


根っからのインターネット・ネイティヴであり、「WEB系アニメーター」に影響を受け、小学生か中学生か……という超早熟な段階から(自分も小学生からだけど)作品数を重ねたらっパル。ストーリー性はどちらかというと希薄なほうで、とにかく動かしまくり、派手なエフェクト描きまくり、というイメージがあるかもしれない。それは彼のフィルモグラフィからすれば半分正解なのだが……例えば彼が高校生のときに作った作品には、こんなのがある。

基本的にはいわゆる「チャンバラアニメ」なのだが、それ以上にらっパルが「やりたいこと」がちゃんと伝わってくるものになっている。キマシタワー。高校生までしか応募できないアニメコンペだった「アニメ甲子園」応募作品とあるが、これは当時かなり目立ったのではないか……。

これをわざわざ今ここで紹介したのは、明日取り上げる傑作中の傑作と、連続性がある作品だからだ。

『SPACE SHOWER TV 「アニソン日本」』らっパル【37夜目】

いわゆる「WEB系」アニメーターと呼ばれる人々がいる。テレビアニメなどの商業アニメーションを手がける原画マンは、通常、まずスタジオに採用され、現場に動画マンとして放り込まれる。そこで何年も下積みをし、キャリアアップしていく……。そんな数十年の伝統を打ち破ったのが、「WEB系」アニメーターの登場だ。自分のサイトや投稿サイト、2ちゃんねる等のスレッドに自分のGIFアニメーションを投稿し、時には「作品」とよべる長さのアニメーションも発表。そこからテレビの現場に直接スカウトされ、基本的にはいきなり原画デビュー……! より厳密にいうと、いろいろ違いがあるみたいだけれど、そんな新しい流れが現れたのは、僕のちん毛がちょうど生え揃い始めたころ……2000年代初頭になってからだ。

特徴的(らしい)のが、他の「普通の」テレビアニメ的原画と違い、とにかく派手に動かすことが好きなアニメーターが多いこと。仕事ではなく、自分の好きなように……かっこいいように動きを作ってゆく経験から入っているから、結果的にかなり派手なアクションやエフェクトを描くことが、好きなひとが多くなる傾向にあるみたい。もちろん、一概には言えないようなのですが。

そうした「すごい人たち」の「GIF」アニメに影響を受け、趣味の延長からやがてテレビアニメでもキャリアを積んでゆくようになる……。昭和ラスト世代の自分にとっては、それはネット上でリアルタイムに見てきた、正にドンピシャの景色だった。「WEB系アニメーターに影響を受けたWEB系アニメーター」は自分の同い年にもたくさんいる。彼らはスタジオに入っていたり、あるいは在宅で仕事をこなしている。TwitterのDMで連絡を取り合うということも、しばしばらしい。

そして、そんな「GIF」アニメの世界に、恐ろしいほどに幼い頃から触れてきた作家……(長くなってしまった!)らっパルも、その中の一人だ。僕よりもさらに下の世代にあたるらっパルは、中学生の頃からYouTubeに作品を投稿し、アフターエフェクトを使いこなし、当たり前のようにデジタルツールに触れた「新時代」の人。らっパルは商業作品の原画もこなすが、このように、広告案件などで丸ごとディレクションする作品が目立つ。そのどれもが完成度も高く、映像の快感がバーンと貫かれているものだ。ド派手なエフェクト、動かしまくりのアニメーション! かつて幼い頃、すごーい、とCRTモニタを見上げたあの「感じ」のアニメーションは今、サブカルチャーのど真ん中で、花開いている。

『FRENZ 2015 二日目深夜の部オープニング -TAKE OFF-』機能美p【36夜目】

機能美pは現在、年に一度行われる上映会、FRENZを中心に新作を発表している。新宿ロフト・プラスワンを二日間に渡り借り切って行われるこのイベントは、間違いなく「日本一熱狂的な映像上映イベント」だ。観客のテンションの高さ、一方での礼儀の良さ、上映の度に巻き起こる万雷の拍手、そして作家たちへのリスペクト、ホスピタリティ。……どれをとっても最高だ。FRENZでは毎回、人気作家を指名して各部の「オープニング映像」を制作している。毎度毎度イベントを熱狂に包んで来た機能美pは、FRENZ2015でオープニング映像監督に初指名。その作風を存分に生かし、なんと15分間もの(!)オープニング映像を作って来た。それが、これだ。

会場全体を「飛行機」に見立てた、というテンション爆上げなアイデアもさることながら、まるで会場を支配するような手拍子・掛け声の煽り、ひとつひとつの気持ちの上げ方、どれをとっても血がたぎるような興奮がある。音楽も実に素晴らしい。これを今見るだけでもけっこう鼻血が出そうになるのに、本番の会場では本当に、とてつもない熱狂(FRENZY)に包まれた作品だった。後半では一転して『Clade over 〔クレード オーバー〕』を彷彿とさせるグラフィック中心のアニメートで魅せ、さらに『月は無慈悲な寄席の女王』のような言葉の力で、幾多のNOやボツを乗り越え、闇の向こうから送り出されて来た作品たちを敬意を込めて紹介してゆく。カッと胸が熱くなるような演出だった。FRENZというイベントに初年度から参加していた機能美pの、そのすべての経験が生かされたかのような作品だった。

たった一度の上映に焦点が当てられたものなので、若干の内輪ネタや、少々古くなった時事ネタも含まれている。そこに目を瞑ってもらえれば、ワオ、と思っていただける作品なのではないか。とはいえいくつかの時事ネタは、今も古びていないけれど……。今見ても笑っちゃったよ。「乗っ取られてますよ!」。

『Clade over 〔クレード オーバー〕』機能美p【35夜目】

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「キネティック・タイポグラフィ」と銘打たれた、文字を画面に大胆にあしらう作風で観客を熱狂させる機能美p。昨日紹介した傑作『月は無慈悲な寄席の女王』の翌年、機能美pは早速、新たな挑戦を企てる。

『Clade over 〔クレード オーバー〕』で描かれたのは、一転して叙情的な物語だった。荒野、扇風機、風車、風見鶏。空の向こう、そして風……。機能美pの持ち味であるコミカルさは十分に生かしながらも、セリフを排した内容で*1、オフライン上映イベント・FRENZに集った観客を釘付けにした。

色数が絞られた、非常に大胆かつ記号的なフォルムのグラフィック。前作で主役だった「キネティック・タイポグラフィ」の使用を絞ることで、この作風の本当の正体がよく解った。それはつまり、ごくごく古くから伝わる……影絵アニメーション、もしくはコメディアンが演じた白黒映画……。そのような、とてもプリミティブな、いにしえの映画的感動がそこには再現されていたのだ。実はすごく、すごく王道で、なおかつ映画的なことをやろうとしているんですよね、機能美pって。大胆な画面分割、明暗がくっきり分かれる演出……それもまた、とてもビッグスクリーン向きの演出だった。『Clade over 〔クレード オーバー〕』は、昔からずっと残っていたような、名画のそれのような趣きが感じられたのだ。

とはいえ、この作品。FRENZ2013というイベントでたった一度上映されて以降、ネットにもアップされることなく、現在まで事実上の封印状態となってしまっている。このサムネも、2015年初頭に発表された「謹賀新年画像」から拝借したものだ。またこれが見られるようになれば……いいな。

*1:確か……笑

『月は無慈悲な寄席の女王』機能美p【34夜目】

さぁ、とんでもない一本を紹介しよう。

この作品を最初に教えてくれたのは、ひらの君だ。「これ見たことある?絶対好きだと思う」と、LINEか何かで送ってくれた記憶がある。後で調べたら、その年初めて僕がFRENZ2012という上映イベントに出展したとき*1、別のプログラムですれ違っていた作品だと解った。

始まりから、見たこともないような映像。巧みに引き込まれる冒頭。<キネティック・タイポグラフィ>と銘打たれた、ぶっとい明朝体の文字がセリフ代わりに画面を埋め尽くし、創作落語家の「とある噺」が展開してゆく。文字を読ませるテンポは巧みで心地よい。映像だけでなく、楽曲もまた機能美pによる手作りだ。全編を彩るスピーディーなテクノサウンドも世界観構築に一役かっている。寄席の拍手からハンドクラップに移行する所なんてたまらない。

見事なのが、「噺」としていちいち上手でめちゃくちゃ面白いというだけでなく、非常に映画的な感動もある作品だということだ。画面を分割する派手なアニメート、記号的であることを存分に生かしたアイデアの数々、実は非常にハリウッド的な脚本構造になっているストーリー、ちょうど作品の半分でリフトオフするロケット……。回想に入るところも、そこから抜けるところも非常に自然で、センスを感じさせる。隅々にまでクスリとなるようなネタが仕込まれていることも素晴らしい。新鮮な驚きと興奮に満ちた、圧倒的といえる名作だと思う。

機能美pは、このような、他のどの作品にも似ていない、オリジナリティに富んだフォーマットを駆使し作品をリリースしている。スタイル上、15分から20分を越える長い作品が多いのも特徴だ。なのでだ。特集上映とかが出来るのだ! 北海道出身ということなので、ぜひ北海道で機能美p(さん)の特集上映とかして欲しい……。このあと紹介する作品もそうなのだが、非常にスクリーン映えする、お客さん映えする作品のオンパレードなので……。

とはいえ、機能美pをまず1本楽しむとしたら、間違いなくこれです。

……け!

*1:そのとき出展したのが『荒波 -LOVE LETTER-』

『動物園(いきたいところ)』(作者不詳)【33夜目】

あ!あった。14夜で取り上げた作者不詳の『banging the drum』の作家さん、YouTubeチャンネルをみつけたぞ。おそらく作り手が同一人物と思われる作品が、もう一本だけ出てきた。タイトルは動画情報によれば『動物園』とあるが、作中では『いきたいところ』と表示されている。

動物がモチーフ、という点では『banging the drum』と同じだが、こちらは一転してモノトーンで絵が表現されている。意図的にしているのでなければ、マスターデータはたぶんDVテープだ……少し昔の作品独特の色味のにじみがある。動物園で迷子になる女の子のお話。音や、影や、記憶や、気配をとらえたような内容で、空白部分に不思議とやわらかな「色味」を感じさせる作品だ。突然、死のモチーフが出てきて、びっくりしてしまうけれど……。

また出会えて良かった……。やはり作者は、美術大学ないしその辺のカルチャーを少なからず吸収した方なのだろう。東京の美大出身かもしれない。エンドクレジット、本当はこの後に続いているはずだが、どうやらアップロードする際に切り落としているっぽいかな。